電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y17004

タイトル(和文)

欧州卸電力市場における情報の公表と市場監視のための制度の概要

タイトル(英文)

A Survey of Regulation about Disclosure of Information and Market Surveillance in Wholesale Power Market in European Countries

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背景
一般に、市場の活性化、効率化のためには、市場参加者が市場での価格に重大な影響を及ぼす情報に等しくアクセスできるような環境が形成されるとともに、不公正な行為を監視する仕組みが設けられることが求められる。

卸電力市場においても同様のことが指摘されており、日本では、適正取引ガイドラインの2016年改定や、それを受けた電力・ガス取引監視等委員会の活動といった形で対応が進みつつある。
この規制の策定にあたっては、欧州連合(EU)における卸売エネルギー市場での不公正取引を規制する規則として、2011年に制定されたREMIT(注)が参考とされた。

目的
日本における卸電力市場での不公正取引に対する規制に関する議論の参考とするため、インサイダー情報の公表や、市場監視のために規制当局が行う情報収集について、REMITや関連するルールの現行規定の内容と、規定の成立に至るまでの議論を整理し、課題を検討する。

主な成果
インサイダー取引の違法性とインサイダー情報の公表の根拠について、証券市場や商品市場の議論も踏まえ、米国・EU・日本の考え方の比較を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
1.米国では、インサイダー取引は詐欺的行為であるが故に違法とされているのに対し、EUでは、市場の健全性を害することが違法性の根拠として挙げられている。日本の制度は、規定自体は米国法を母法としているが、その前提となる考え方はEUのそれに近い。
2.日本では、インサイダー取引に刑事罰を課す際の構成要件の明確化の観点もあり、インサイダー情報の内容を具体的に記載する傾向にある。一方EUでは、情報への平等なアクセスを確保する観点から、価格形成に重大な影響を与える情報を全てインサイダー情報とし、市場参加者にその公表を求めている。

電力・ガス自由化の流れの中でのREMIT制定の背景について、文献調査に基づく整理を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
1.自由化された電力・ガスの卸売市場での価格は、小売価格にも影響を与えることから、卸売エネルギー市場の健全性の確保は、市場参加者の市場への信認のみならず、事業制度全般に対する小売需要家の信認にも影響を与える。しかし、2000年代前半において、卸売エネルギー市場に対する市場参加者や小売需要家の信認は必ずしも十分なものではなかった。
2.エネルギーの卸売市場は、電力とガスの間の関係に加え、現物取引の市場と先物市場などの金融市場との間にも密接な関係がある。しかも、取引の場も、取引所に限らず、店頭取引(OTC)や各種の相対取引など多様である。市場に対する規制はこれらを包括した形で行われる必要があるが、REMIT以前の規制はその目的を果たすには適していなかった。

REMITにおけるインサイダー情報の開示と市場監視に関する規定の整理と課題の抽出を行った結果、以下のことが明らかになった。
1.REMITでは、市場参加者に対し、卸売エネルギー商品の価格形成に影響を及ぼすと考えられる全ての情報をインサイダー情報とし、これを広く一般に公表することを要求している。
2.EU大で有効な市場監視を行うため、市場参加者には、取引の注文状況を含む各種の情報を規制当局に提出することが要求されている。

日本の制度は、REMITのそれを参考にしつつも、他の制度との関係もあり、インサイダー情報の具体性といった点で違いが生じている。現行の制度は、規制の形式や管轄の関係もあり、「電力の現物市場」における「電気事業者」の行為を規制の対象とする一方、今後導入される予定の先物市場の規制は、これとは別の法体系の下で規制が行われることが想定されている。
このことは、エネルギーに関する卸売取引を包括的に規制することで、市場への信認を確保しようというREMITの考え方とは大きく異なるものである。

今後の展開
電力の先物市場に対する規制の議論が進む中、先物市場における不公正取引のあり方について、電力の現物市場における現在の規制と、商品先物取引に対する規制の体系との関係について明らかにすることを通じ、エネルギーに関する卸売取引の包括的な規制の必要性について検討していく。

(注)REMIT:Regulation on Wholesale Energy Market Integrity and Transparency (卸売エネルギー市場の健全性と透明性に関する規則)

概要 (英文)

In this report, we survey the regulation about disclosure of information and market surveillance in European wholesale energy markets by REMIT, a EU Regulation to keep integrity and transparency of energy market. Because the regulation of market abuse in the Japanese energy market refers to REMIT, understanding the contents of REMIT is useful in considering Japanese regulations. The results are follows;
The aim of REMIT is to ensure that not only market participants but also consumers are able to have confidence in the integrity of energy markets. Price formation on commodity markets for electricity and gas as well as derivative markets are closely related, therefore REMIT aims at being an EU wide regulatory framework that applies to all transaction.
Because unequal access to relevant information may distort the price formation and distrust the reliability of the market function, REMIT provides obligation to disclose inside information to market participants.
REMIT foresees data collection rules to the benefit of supervising entities in respect of transactional and fundamental data.
The system regulating the energy market in Japan is fundamentally different from the system of REMIT. For this reason, the Japanese system and REMIT differ in the target addressee of the market and obligation. In the process of developing a mechanism to prohibit an abuse in energy market in Japan, it is important to reflect how to deal with those differences.

報告書年度

2017

発行年月

2018/03

報告者

担当氏名所属

丸山 真弘

社会経済研究所

キーワード

和文英文
卸電力市場 Wholesale Power Market
欧州連合 European Union
市場監視 Market Surveillance
情報公開 Disclosure of Information
卸売エネルギー市場の健全性と透明性に関する規則 REMIT
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