電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
Y16004
タイトル(和文)
EUの電力・ガス事業分野における合併審査 ―1990年以後の欧州委員会による審査事例の検討―
タイトル(英文)
The European Commission's Merger Review in the Electricity and Gas Markets
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
欧州や米国の電力・ガス事業の経験からは、競争導入後に、規模の経済の追求や他業種進出などを目的に、合併や買収などのM&A(以下、単に合併と言う)の増加が見込まれる。その際、独禁法に基づく公正取引委員会の合併審査が課題となる。
目 的
従来あまり紹介されていない、欧州委員会が審査したEUの電力・ガス事業分野の合併事例を整理・検討し、日本の合併審査において問題となり得る論点を明らかにする。
主な成果
1. 欧州における電力・ガス分野の合併審査の現状(1990年9月~2017年2月)
欧州委員会に通知された同分野での合併事例336件の内訳を示した(図)。その約9割に当たる293件がそのまま承認され、20件が競争への弊害を緩和する問題解消措置の実施を条件に承認されていた。競争への弊害を理由に禁止されたものは、1件であった。
2. 欧州委員会の審査事例の分析と将来の日本の合併審査への示唆
欧州委の審査事例を整理した上で(表)、公取委の合併審査につき以下を明らかにした。
(1)電力・ガス分野における市場画定について
欧州委は、国際連系線の容量が不十分であること、国ごとに規制体系が異なることを理由に、国単位で市場を画定している。他方、日本では地域間の規制体系の違いはないため、地域を越えた参入が増加すれば、より広い範囲で市場を画定すべきである。
(2)合併が競争に及ぼす影響の評価手法について
欧州委は、市場シェアを基本に判断しつつも、卸電力市場の特徴などを考慮して合併が競争に与える影響を分析している。日本の合併審査においても、合併後の価格引き上げの可能性を審査する際には、電力・ガス市場の特徴を踏まえるほか、各種事業法に基づく市場支配力の抑制・監視のための諸制度を前提として検討するべきである。
(3)競争への弊害を緩和するための問題解消措置について
EUでは、電力・ガス分野の競争促進を目指す欧州委が、同時に、競争法に基づく合併審査も担当している。そのため、EU競争法の専門家は、欧州委が合併審査に伴う問題解消措置を、積極的な競争促進手段として利用していると評価している。またその結果、同分野では通常の合併審査よりも重い問題解消措置(例:電源の開放や国際連系線の建設)を事業者に課していると評価されており、行き過ぎであるとの見解もある。
そこで、日本の合併審査で欧州委と同様の問題解消措置を採用すれば、独禁法に基づく規制としては過剰な介入となるおそれがある。また、欧州委とは異なり、公取委自身は電力・ガス事業政策を担当しない。そのため、合併審査を通じて競争促進のために積極的に介入することは、本来の担当官庁の政策との間で齟齬を生むおそれがあり、必ずしも適当ではない。
今後の展開
事例の深堀りを行い、EUの電力・ガス分野の合併審査をより詳細に明らかにしていく。
概要 (英文)
From the experience in Europe and in the United States, the liberalization of Japan's electricity and gas markets could lead to the increase in the number of M&A's such as mergers, which need to be reviewed by Japan Fair Trade Commission under the Anti-Monopoly Act. This report surveyed and examined European electricity and gas merger cases which the European Commission has reviewed. Major findings are as follows.
Among 336 merger cases, the European Commission unconditionally approved 293 through the simplified procedure or in Phase I investigation. In Phase investigation, the Commission approved 20 cases subject to accepted remedies, and prohibited 1 case. As to the relevant geographical market, the Commission usually define markets nationally, and do not define supranational markets, because of the limited cross-boarder interconnectors and the different national regulatory structures. As to the competition analysis, the Commission considered specific characteristic of the power market, i.e. vulnerable to market power. As to the remedy, the Commission imposed heavier burden on the merging undertakings than other sectors such as competitors' access to wholesale electricity and the construction of cross-boarder transmissions and gas pipelines. This is because, according to the commentators, the European Commission uses merger remedies as tools for liberalizations of energy markets.
報告書年度
2016
発行年月
2017/03
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
佐藤 佳邦 |
社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
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合併審査 | Merger Review |
独占禁止法 | The Anti-Monopoly Act |
EU競争法 | EU Competition Law |
問題解消措置 | Merger Remedies |
市場画定 | Market Definition |