電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

Y15019

タイトル(和文)

電力小売全面自由化後の規制料金の撤廃判断のあり方-海外事例調査およびわが国市場環境をふまえた検討-

タイトル(英文)

Criteria for removal of regulated price after liberalization of retail electricity market - Experiences in foreign countries and their reflection to Japan -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

わが国では、電力小売全面自由化の実施後、競争が進展せず需要家が不利益を被ることを防ぐために、経過措置として規制料金が残される。規制料金は、地域別の競争状況の違いも考慮しつつ、競争の進展を確認し、需要家の利益を阻害しないことを判断した上で撤廃される予定である。ただし、海外では、規制料金を存続させることで競争の進展が妨げられる可能性があることも指摘されている。
本報告では、海外における小売全面自由化後の規制料金の存廃の動向調査や、日本の料金制度の特徴をふまえ、わが国の規制料金の撤廃判断における留意点や課題を明らかにする。
主な成果は以下の通りである。
1. 規制料金の弊害を考慮した規制撤廃判断
規制料金を存続させることで生じる弊害(資源配分の歪みなど)を整理した。規制料金の存廃を判断する際には、競争の進展状況を確認することに加えて、こうした規制料金の弊害も考慮することが重要である。特にわが国では、規制料金に用いられる三段階逓増料金に起因する弊害にも注意が必要である。三段階逓増料金は、電力多消費世帯が高い料金を負担することで成立している。自由化後に電力多消費世帯が自由料金に移行するのにあわせて、規制料金を随時改定しなければ収支が不均衡となり、既存事業者と新規事業者の競争条件が不公平となる可能性がある。規制料金が撤廃されればこの弊害は解消されるが、経過措置の間は弊害を緩和するために、少なくともこれまでの料金改定で数カ月を要してきた料金審査の迅速化が必要である。
2. 地域別の規制料金の撤廃における留意点
海外では、地域別の競争状況の違いを理由に、地域別に規制料金を撤廃する例は少ない。仮に、規制料金の弊害が大きいままに、一部の地域でその撤廃が行われると、地域別の競争状況の違いが拡大する可能性にも留意する必要がある。
3. 事業者の料金設定や需要家の選択行動を考慮した競争評価
市場シェアや電気料金の推移だけでは、競争の進展や規制撤廃を判断することは難しく、欧州では、事業者や需要家の行動についても多様な指標が提案されている。例えば、わが国で地元の既存事業者の自由料金のシェアは大きいが新規参入は少ないといった場合には、規制撤廃の賛否が分かれると考えられる。この場合でも、欧州で提案されている指標のうち、料金の分布やそれに対する需要家の反応などから、需要家がより安い料金を選択して競争の利益を享受できることが示されれば、規制の必要性が小さいと判断できるだろう。
4. 電力市場に対する需要家の理解や信頼を考慮した競争評価
欧州では、配電事業者の役割に関する需要家の認知や市場への信頼などを把握することも提案されている。わが国の全面自由化直前の需要家調査では、自由化に関する情報不足や新規事業者と契約すると停電が増えるかもしれないという誤解も見られた。仮に、自由化後もこうした誤解や情報不足が残れば競争が進まない可能性がある。国や事業者等の広報・営業活動を通じて誤解等が解消されていくことが重要となる。
今後の展開
わが国の規制撤廃の判断材料を提供するために、小売全面自由化後の実際の競争状況を分析するとともに、規制料金の弊害が生じていないか検討を進める。

概要 (英文)

In Japan, the retail electricity market for residential customers is to be liberalized in April 2016. After liberalization, regulated retail electricity price will be provided by incumbent suppliers in addition to market based price offered by both incumbent and new entrant suppliers. This report examines how to decide whether regulated retail electricity price would be removed. The results are summarized as below.
1. Negative effects of regulated price on retail market should be considered in decision of removal of regulated price.
2. Regional differences in retail competition could expand if regulated price would be removed only in more competitive regions despite prevalence of the negative effects on retail market.
3. Market conducts such as suppliers' price settings and customers' choice behaviors, should be considered in market review to confirm customers could benefit from retail competition.
4. It is important to monitor whether customers trust electricity market, because distrusts often lead to wrong decisions, which hinder rational choices and thus customers' benefit.

報告書年度

2015

発行年月

2016/05

報告者

担当氏名所属

後藤 久典

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

キーワード

和文英文
電力小売全面自由化 Full liberalization of retail electricity market
家庭用需要家 Residential customer
規制料金 Regulated price
競争評価 Competition review
需要家行動 Customer behavior
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry