電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
V18002
タイトル(和文)
温度目標と整合的な中長期の排出水準に関するIPCCの評価 - 1.5℃特別報告書と第5次評価報告書の比較 -
タイトル(英文)
IPCC's assessment of mid- and long-term emissions levels consistent with the temperature goal - Comparison between the 1.5 degC special report and the Fifth Assessment Report -
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
2018年10月に発表された1.5°Cの地球温暖化に関するIPCCの特別報告書(以下、SR15)で、工業化前比での世界平均気温の上昇(以下、温度上昇)を1.5°C に抑える目標に関連する最新知見が明らかになった。2015 年に採択されたパリ協定では1.5–2°Cの目標が示されたが、その前年のIPCC 第5 次評価報告書(以下、AR5)では2°C 未満の情報が限られていた。SR15 によって1.5°C に焦点が当たり、この水準での気候の影響と排出削減の道筋(排出経路)の情報が拡充された。しかし、温度目標と整合的な排出水準に関する統合的な知見がAR5 と比べてどのように更新されたか、明確には整理されていない。
目 的
IPCC 報告書の統合的知見となる、気候影響、温度上昇、累積CO2 排出量および排出経路の相互関係に注目して、AR5 からSR15 にかけて更新された点を調査・分析する。
主な成果
1. AR5 からSR15 にかけて更新された点
(1) 気候影響のリスク水準と温度上昇の関係
5 項目の指標について4 段階のリスク水準を温度と対応づける評価 [1]注1 )で、1.5°C 前後のリスク水準 がSR15では深刻化した。ただし、温暖化への適応に関する知見の一貫性の観点から、AR5 と同程度のリスク水準とされた所もある。
(2) 温度上昇と累積CO2排出量の関係
温度目標と整合する排出水準の目安となるカーボンバジェット注2)が、SR15 では上方修正された(表1)。この更新は、温度上昇と累積CO2 排出量の関係を確率論的に評価する方法で、現在の観測値を基準とする方法が導入されたことによる。
(3) 累積CO2排出量と排出経路の関係
SR15 とAR5 で参照された多数の排出経路を累積CO2 排出量に着目して比較・分析した。この結果、SR15 のカーボンバジェットの評価は、個々の排出経路に見られる温度上昇と累積CO2 排出量の関係と概ね整合することが明らかになった(図1)。2°C 目標と整合する累積CO2排出量は全体的にSR15 の方が上回っており、この違いはCO2以外の要因の変化傾向と整合的であった(図2)。
2. 更新の背景と今後の見通し
SR15 では現在の水準(約1°C)に近い1.5°Cに焦点が当たり、低めの温度目標に注意が向けられる一方で、現実に即した評価方法が取り入れられて、目標と整合する排出水準が増加した。今後も各分野で新しい知見や方法論が導入されて、一連の評価が更新されることが示唆される。
概要 (英文)
The IPCC's special report focusing on global warming of 1.5degC was published in October 2018. Herein we clarify in what ways the special report has been updated from the previous Fifth Assessment Report, in terms of the relationship between climate change impact risk, temperature rise, cumulative CO2 emissions, and emissions pathway, including those at a level of 2degC. The climate impact was found in many natural and human processes, with notable differences between the levels at 1.5degC and 2degC, and the overall risk level has increased. Meanwhile, the constraint imposed by cumulative CO2 emissions, or carbon budget, which has a linear relationship with temperature rise, has become less restrictive resulted from a newly introduced estimation method. Regarding the emissions pathway, we have compared and analyzed many scenario data used in the new and previous reports. As a result, we have found that the level of cumulative CO2 emissions consistent with 2degC goal is in general agreement with the updated carbon budget, and greater in the new pathways than in the previous ones associated with some systematic differences in non-CO2 forcing.
報告書年度
2018
発行年月
2019/06
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
筒井 純一 |
環境科学研究所 大気・海洋環境領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
気候変化影響 | climate change impact |
カーボンバジェット | carbon budget |
排出経路 | emission pathway |
非CO2強制力 | non-CO2 forcing |
統合評価モデル | integrated assessment model |