電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
V16001
タイトル(和文)
わが国における樹木の伐採後の萌芽抑制に関する文献調査
タイトル(英文)
The growth control of tree sprout by cutting operations and agrochemical treatments in Japan
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
送電線下の接近木管理の効率化に向けた技術的課題の一つに、樹木伐採周期延伸による管理頻度の低減がある1)。伐採周期を延伸するためには伐採後に発生する萌芽の伸長成長抑制が有効であるが、効果のある萌芽抑制方法に関する情報は整理されていない。
目 的
既往の知見から、萌芽抑制に効果のある伐採方法および薬剤処理方法を抽出し、接近木管理への適用に向けた課題を明らかにする。
主な成果
科学技術文献データベースJDreamIIIと林業関係国内文献データベースFOLISを用いて、萌芽の発生・成長について検索を行い、62編の文献を収集した。農薬関連ハンドブックに記載の情報も整理し、萌芽抑制効果のある方法を抽出した。
1. 萌芽抑制に効果のある伐採方法
伐採の時期や伐採する高さの違いによって萌芽の伸長が抑制される事例と、切株樹皮剥皮によって萌芽の発生が抑制される事例があった。広葉樹(落葉樹:コナラ、クヌギ、ミズナラ、オオヤマザクラ、ニセアカシア、常緑樹:アラカシ、ウバメガシ)では、成長休止期(11月から4月まで、北海道は5月まで)に伐採するより、成長期(5月から9月まで)に伐採した方が、萌芽の伸長成長が抑制された(表1)。伐採時期の違いによる伸長成長量の差が最も大きかったニセアカシアでは、送電線への接近限界地上高を15 mと仮定した場合、伐採時期を成長休止期から成長期に変更することで、接近を6年程度遅延できることになる注1)。一方、伐採位置を地際(0-20cm)より高い位置(20-100cm)にすることで、コナラ、クヌギ、ミズナラの3樹種では萌芽の伸長成長が抑制されることがわかった(表2)。また、伐採後の切株の樹皮を剥皮することで、落葉広葉樹のヤナギ属樹種では切株からの萌芽の発生が抑制されるとの報告があった。
2. 萌芽抑制に効果のある薬剤処理
薬剤処理による効果には、除草剤や植物成長調整剤(植調剤)による伸長抑制と、除草剤の切株塗布による発生抑制があった。樹木へ使用認可されている除草剤のうち、アミノ酸生合成阻害作用注1を有する5種(表3)は、除草剤としての薬量より少量を散布すると、枯死させることなく伸長成長を抑制できること、切株塗布に使用する除草剤は3種(表3)あり、切株を枯死させることで萌芽の発生が抑制できることがわかった。一方、伸長成長に抑制作用のある植調剤には、特定の樹種に使用が限定されていないものが2種(表3)あるが、コナラなど森林を構成する樹種への効果を調べた知見はなかった。
3. 接近木管理への適用に向けた課題
伐採方法の工夫や適切な薬剤処理によって樹木の萌芽を抑制できることが明らかとなった。送電線下に生育する樹種は地域や地点で異なるため、今後は実際の管理地域において伐採時期や伐採高の違いによる効果を検証する必要がある。薬剤処理については対象樹種と除草剤や植調剤を組み合わせた実験から検討する必要がある。
注1) ニセアカシア(表1下段)の事例では、成長休止期に伐採した場合の初年度萌芽伸長成長量は2.6m、次年度以降の伸長成長速度は1.25m/年であった。一方、成長期に伐採した場合の初年度萌芽伸長成長量は0.1m、次年度以降の伸長成長速度は0.95m/年であった。送電線の地上高を15mとした場合、萌芽が送電線に到達するまでの年数は、成長休止期伐採で約9年、成長期伐採で約15年となる。
注2)除草剤の作用機構による分類の一つ。植物の成長に必要なアミノ酸あるいはその合成酵素の生合成を阻害することにより、成長を停止させ、枯死させる。
関連報告書:[1]V14001「送電線下の植生管理に関する現状と合理化に向けた技術的課題の抽出」2014年12月
概要 (英文)
A survey of literature was conducted for the growth control of tree sprout by various cutting operations and agrochemical treatments in Japan. Compared to cutting in non-growing season, cutting in growing season effectively decreased sprout growth in seven tree species with high sprouting ability (5 deciduous species: Quercus serrata, Q. mongolica var. crispula, Q. acutissima, Cerasus sargenti [syn. Prunus sargentii], Robinia pseudoacacia and 2 evergreen species: Q. glauca and Q. phillyraeoides). Additionally, cutting at high position (more than 20 cm heights) of stump sometimes decreased sprout growth in the 3 deciduous Quercus species. These results suggest that appropriate combinations of cutting season and height enable us to ideally manage sprouting and sprout growth of various trees species.
There are two methods of agrochemical (herbicide and plant growth retardant) treatment for the control of sprouting: application to cutting surface of stump and spraying to shoot. Applying the herbicide (imazapyr, glyphosate potassium salt or triclopyr) to cutting surface successfully killed the stump, resulting in suppressing sprouting. Applying lower amount of herbicide (imazapyr, glyphosate potassium salt, glyphosate isopropylamine salt, bispyribac sodium salt or metsulfuronmethyl) than recommended inhibits amino acid biosynthesis and appears to suppress, but not completely impair, shoot elongation of tree species as well as grass species. Two plant growth retardants (paclobutrazol and flurprimidol) could be promising candidates for the control of sprout growth of trees with no species specificity. Future experiments are essential to make clear the actual impact of these retardants on the growth of the forest tree species with high sprouting ability.
These techniques are quite beneficial for vegetation management under transmission lines. Feasibility study is required to verify above-mentioned methods, combination of cutting season and height, and some agrochemical treatments, in targeted tree species around transmission lines.
報告書年度
2016
発行年月
2016/12
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
松村 秀幸 |
環境科学研究所 生物環境領域 |
共 |
中屋 耕 |
環境科学研究所 生物環境領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
萌芽成長 | sprout growth |
伐採時期 | cutting season |
伐採高 | stump height |
除草剤 | herbicide |
植物成長調整剤 | plant growth regulator |