電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
SE23002
タイトル(和文)
家庭用給湯分野への省エネ補助金の効果分析
タイトル(英文)
Analysis of the Cost-Effectiveness of Energy Efficiency Subsidies for the Residential Hot Water Sector
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
給湯は家庭部門のCO₂排出量の約4分の1を占めており、排出削減のために省エネ機器を導入していくうえでの課題の1つは初期費用の高さであるため、補助制度への期待も高い。しかし、補助は政府に負担が生じ、効果は対象や額で異なる可能性があるため、費用対効果を決める要素を認識し、改善を試みることは重要である。
目 的
家庭用給湯分野を対象に、電気省エネ型(エコキュートをはじめとするヒートポンプ給湯機)に対する複数の補助方法を比較評価し、効果的な補助に関する知見を得る。
主な成果
世帯の多様性を考慮し、機器単価・工事費用・ランニング費用を踏まえて給湯機器を選択する分析モデルで、3通りの対象(一律、新築のみ、既築のみ)と4通りの補助額(5万円、10万円、20万円、30万円)を組み合わせた12通りの補助方法を比較評価した。補助期間は2025年の1年間と仮定した。
1. 費用対効果の違いとその要因
本報告では、1トンのCO₂削減にかけられた補助費用(CO₂削減費用)で費用対効果を評価した。(1)補助なしでも導入する世帯では補助によるCO₂削減はなく費用のみかかること、(2)補助で省エネ型を導入すると後の機器交換時にも選ばれやすくなり将来的にもCO₂が削減されることの2点を考慮すると、既築住宅向けよりも新築住宅向けの補助の方がCO₂削減費用は抑えられる(図1)、すなわち、費用対効果が高い。その理由と主な示唆は次の通りである。
(1) 既築は補助なしでも導入する世帯割合が多く、費用対効果を高める工夫が重要
補助がなければ導入しなかった(補助を契機に導入した)世帯に限定した費用対効果の評価では、居住世帯の特徴が異なるものの、新築と既築で大きな差はみられない(図2)。しかし、補助なしでも導入した世帯に使われた補助費用を考慮すると、特に既築の費用対効果が低下する。
なぜならば、既築の場合、戸建住宅で交換前後で同じタイプにすれば工事費用を抑えられることや集合住宅で設置スペース等の課題があることにより、補助の有無とは関係なく導入機器が決まる割合が多くなるからである。したがって、既築向け補助においては、燃焼式から電気式への転換の補助を強化する、導入時期の前倒しを促すなど、補助による行動変容を増やす工夫が重要である。
(2) 新築は将来的な機器交換の機会が多く、費用対効果が高まりやすい傾向
補助でひとたび電気省エネ型が導入されると、その後の交換時も選択されやすくなる。特に新築の場合、将来的な機器交換の機会が多いため、一度の補助でより多くの回数の電気省エネ型導入がもたらされ、費用対効果が向上しやすい。同じ機器が選択されやすいという特性は、省エネ機器普及の障壁となっているものの、早期からの補助で省エネ機器を固定化できるという強みにもなり得る。
2.社会的費用への影響
総補助額から給湯関連費用(補助を含まない機器単価、工事費用、ランニング費用の合計)削減額を引いた社会的費用が小さいほど、補助のための社会の負担が減る。
高い割引率で(将来的な金銭価値を大きく割り引いて)判断されるとき、初期費用に課題がある電気省エネ型は導入されづらい。このような状況下では、本来ならば大きな省エネ効果が得られる場合であっても、電気省エネ型を導入していない世帯が多く残されている。そうした世帯が補助を契機に電気省エネ型を使うようになると、給湯関連費用がより大きく削減され、社会的費用が小さくなる(図3)。低所得者や賃貸設備に関わるデベロッパーやオーナーなど、高い割引率で判断をするとされる対象者への補助は、より効果的である可能性が示唆される。
概要 (英文)
The residential hot water sector is a significant contributor to household CO2 emissions, accounting for about a quarter of the total. In this context, heat pump water heaters, supported by subsidies, emerge as a key technology for decarbonization. However, the effectiveness of these subsidies varies depending on the allocated amount and target group. This study employs a simulation model to evaluate real-world scenarios of water heater replacement and to assess the impact of different subsidy strategies. Our analysis indicates that subsidies for new construction are more cost-effective compared to those for existing buildings. This increased effectiveness is due to lower construction cost differentials and fewer installation constraints in new constructions, which foster a higher adoption rate of heat pump water heaters. Additionally, the likelihood of selecting the same system for future replacements amplifies the long-term benefits, particularly due to the greater opportunities for replacements in new constructions. Our findings suggest that prioritizing new constructions for subsidies is a more efficient approach. Moreover, it indicates that cost-effectiveness could be improved by reducing payments to households that would otherwise choose heat pump water heaters without subsidies.
報告書年度
2023
発行年月
2024/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
山田 愛花 |
社会経済研究所 |
共 |
西尾 健一郎 |
社会経済研究所 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
ヒートポンプ | heat pump |
省エネルギー | energy efficiency |
補助事業 | subsidy program |
費用対効果 | cost-effectiveness |
CO₂削減 | CO2 reduction |