電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
SE22003
タイトル(和文)
EUタクソノミーにおける天然ガスと原子力―「トランジショナルな活動」に位置づけられた経緯とスクリーニング基準の分析―
タイトル(英文)
Natural Gas and Nuclear Energy in the EU Taxonomy - Background of Labelling as the "Transitional Activity" and Analysis of Technical Screening Criteria -
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
EUタクソノミーにおける天然ガスと原子力の位置づけをめぐっては、EU内で意見の対立があり、基本的な考え方や原則等を定めた規則2020/852(タクソノミー規則)や、様々な経済活動のスクリーニング基準を定めた委員会委任規則2021/2139では、両者の位置づけが曖昧にされてきた。2022年8月4日に発効した委員会委任規則2022/1214は、数年来の論争を決着させ、天然ガスと原子力に関するスクリーニング基準を定めた。
目 的
EUタクソノミーにおける天然ガスと原子力の位置づけを、委員会委任規則2022/1214の制定に至る経緯と、両者に関するスクリーニング基準を分析することで明らかにする。
主な成果
1. EUタクソノミーの制定過程と天然ガス・原子力
タクソノミー規則では、「気候変動の緩和に貢献する活動」として再生可能エネルギーのみを明記しつつ、気候中立な社会への移行を支援する「トランジショナルな活動」という分類を確立した。天然ガスは化石燃料であってGHG排出を伴うことについて、原子力は放射性廃棄物の環境影響等をめぐって、EU内で意見の対立があり、タクソノミー規則ではいずれも位置づけが不明瞭であった。委員会委任規則2022/1214では、仏独の対立が顕著な原子力と、ドイツにとって重要な天然ガスがパッケージとなったことで政治的な妥協の余地が生じ、いずれも「トランジショナルな活動」として位置づけられた。
2. 天然ガスと原子力に関するスクリーニング基準
委員会委任規則2022/1214では、天然ガスと原子力に共通して、「ライフサイクルGHG排出量が100gCO2e/kWh未満」という閾値と、両者に特化した情報開示の要件を定めた。また、天然ガスについては「2030年末までに建設許可を取得する設備」に関する要件、原子力については安全・規制や廃棄物・廃炉に関する要件を定めた。これにより、EUタクソノミーにおけるエネルギーセクターの基準が固まった(表1)。
3. 「トランジショナルな活動」としての天然ガスと原子力
天然ガスと原子力は、GHG排出に関して、再エネと同等の閾値が設定されながら、いずれも「トランジショナルな活動」に位置づけられた。「気候変動の緩和に貢献する活動」と「トランジショナルな活動」の双方に全く同じ閾値が設定されたのは、エネルギーセクターの他にはない。この点には、EUタクソノミーにおける天然ガスと原子力の政治的な性格が色濃く投影されている。
また、天然ガスは、「トランジショナルな活動」を定義したタクソノミー規則第10条2項の内容を踏まえて、スクリーニング基準が具体化されている(表2)。一方、原子力は、EU内の政治的な対立を踏まえた妥協の結果として、再エネ等の「気候変動の緩和に貢献する活動」とは異なる、タクソノミー規則第10条2項に該当する活動と位置づけられた。
概要 (英文)
Role of natural gas and nuclear energy has been heatedly debated during development of EU taxonomy. Member States and other stakeholders were divided over the issue. In the Regulation (EU) 2022/852, or the Taxonomy Regulation, it is kept unclear as 'delicate compromise'. Instead, the Taxonomy Regulation defined "transitional activity" in the paragraph 2 of Article 10, in addition to "activity contributing to climate change mitigation" referred to in the paragraph 1 of Article 10. Commission Delegated Regulation 2022/1214, which amended Commission Delegated Regulation 2021/2139 establishing technical screening criteria for climate change mitigation objective, eventually labelled both natural gas and nuclear energy as 'transitional activity' under the EU taxonomy and determined technical screening criteria in detail. However, nature of these economic activities differs. Technical screening criteria for natural gas materialized requirements contained in the paragraph 2 of Article 10 of the Taxonomy Regulation, while labeling of nuclear energy as "transitional activity" is a result of political compromise. In addition, energy is the only sector which has same criteria on the level of greenhouse gas emission for both "activity contributing to climate change mitigation" and "transitional activity", while these are clearly distinct in the Taxonomy Regulation.
報告書年度
2022
発行年月
2023/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
堀尾 健太 |
社会経済研究所 |
共 |
富田 基史 |
サステナブルシステム研究本部 気象・流体科学研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
EUタクソノミー | EU Taxonomy |
サステナブルファイナンス | Sustainable Finance |
気候変動の緩和 | Climate Change Mitigation |
天然ガス | Natural Gas |
原子力 | Nuclear Energy |