電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

SE22002

タイトル(和文)

英国の原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分事業を巡る動向 -実施体制の変遷とその要因を中心に-

タイトル(英文)

Study on Decommissioning and Radioactive Waste Disposal Programs of Nuclear Power Plants in the United Kingdom - Focus on Changes in the Implementation System and Their Factors -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背 景
英国は、原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分事業(以下、バックエンド事業)の実施に際して、各炉が民営化の対象になったか否か、建設されたのが自由化の前か後か等によって、官民の役割分担等が変遷してきた国である。そのような変遷の過程や要因を把握しておくことは、日本の今後のバックエンド事業の実施体制の検討に有益である。
目 的
日本における今後のバックエンド事業の進め方に関する検討の参考にするために、英国の原子力発電所のバックエンド事業の実施体制を調査し、その特徴等を明らかにする。
主な成果
1. 英国のバックエンド事業の実施体制の特徴
英国のバックエンド事業の実施体制の特徴をまとめると表のようになる。Magnox 炉や改良型ガス冷却炉(Advanced Gas-cooled Reactor:AGR)のように、原子力事業が国営だった時期に建設された炉のバックエンド事業については、国の機関である原子力廃止措置機関(Nuclear Decommissioning Authority:NDA)とその子会社が大きな役割を担っている。自由化後に建設が開始された炉を含めた将来の炉の廃止措置は事業者の責任で実施することになっており、廃棄物処分については、費用負担をすることで国に実施責任を移転する(使用済燃料等の所有権を国に移転する)選択肢が事業者に与えられている。
2. 英国のバックエンド事業の実施体制の変遷とその要因
(1) 改良型ガス冷却炉の廃止措置責任の変更
1990 年代に進められた原子力事業の民営化・自由化の際に、使用済AGR燃料の再処理に関連する費用回収や、ガス火力発電との競争の下での収益性の確保等を考慮した十分な制度設計がなされることなく、結果的に民間企業では負担しきれないような、再処理等に関連するリスクがBritish Energy(BE)に移転されていた。そのようなリスクの顕在化等によって、2000 年代以降にBE は経営危機に陥った。BE の破綻による電力の安定供給や原子力発電所の安全に対する影響等を考慮して、国が前面に出て、BE のバックエンド事業の負担を軽減する等の救済措置が講じられた。その後、2021 年にNDAがAGRの廃止措置も担当することになったのは、BEに対する救済措置の一環であるバックエンド事業の負担軽減策が、BEを買収したEDF Energy にも引き継がれており、その一つである、燃料搬出後に炉の所有権を国(NDA)へ移転することについて、国が決定したことによる。
(2) NDA による完全子会社化の進展
英国で廃止措置中の原子力施設のライセンスを保有している者は、サイトライセンス会社(Site License Company:SLC)と呼ばれている。NDAは、廃止措置事業の費用を削減するために、SLC の事業の管理業務を担当する母体組織(Parent Body Organisation:PBO)を競争入札する方式を採用していた。公正な競争の促進の観点からは、事後的に重大な契約変更を行うことは望ましくない。そうした事態を避けるためには、NDA は、どのような事業の管理をPBO に委託するのかを事前に明確にする必要があった。そのためにPBOとの契約前に、NDAはサイトの状態を正確に把握しておく必要があったが、NDAによる作業進捗の遅れと、事業の有する不確実性から、十分にはなされなかった。結果的に、バックエンド事業の範囲に高い不確実性が残るサイトでは、事業の進展に伴って得られる知見等を活用して事業内容を見直すことが必要であり、そのようにすることが契約上の問題を生じさせうるPBO 方式は適さないことが明らかになった。そのため、NDAはPBO方式を見直し、SLC の完全子会社化を進めた。
3. 日本のバックエンド事業の実施体制への示唆
競争環境下で事業者が負担すべきバックエンド事業のリスクのあり方については、事業者に過大な負担を負わせた結果として国が前面に出ざるをえなくなった英国の事例を参考にしつつ、日本においてもさらに議論が深められるべきである。英国においてPBO 方式が見直されることになった要因は、バックエンド事業が有する不確実性が明らかになったことと、NDA の事業遂行をチェックする仕組みが機能していたことであったと言える。不確実性を考慮に入れて、技術進歩や状況の変化に対応しながら事業の見直しが図れるように、事業のチェック体制の確立や、使用済燃料の中間貯蔵の価値の見直し(将来の変化に対応する余地を残すために、現状を一時的に固定する中間貯蔵の価値を積極的に位置づける)等を検討することが重要である。
今後の展開
バックエンド事業の資金管理等について、諸外国の制度や実務を調査する。

概要 (英文)

This report discusses implementation system of back-end programs of nuclear power plants (NPPs) in the United Kingdom to provide a reference for the consideration of appropriate decommissioning procedures in Japan.
In the U.K., the Nuclear Decommissioning Authority (NDA), a national agency, and its subsidiaries play a major role in back-end programs of NPPs such as Magnox reactors and Advanced Gas-cooled Reactors (AGR). The decommissioning of future reactors, including those that started construction after liberalization, is the responsibility of the operator, and the operator is given the option of transferring the responsibility for waste disposal to the government by bearing the costs.
The option to transfer ownership of AGR was one of the conditions of the British Energy's restructuring and was taken over by EDF Energy. It was exercised in 2021 and the NDA would also implement the decommissioning of AGR.
The Parent Body Organisation scheme used by the NDA was found to be unsuitable for implementing back-end programs of the sites with high uncertainty, as a result of a proper audit by a state agency.
Possible factors for the revision of the PBO scheme in the U.K. were that the uncertainties in the back-end programs had become apparent and the mechanism to check the programs carried out by the NDA had functioned. In Japan, it is important to establish a checking system and to review the value of interim storage of spent fuel so that the back-end programs can be reviewed in a timely manner in response to changing circumstances, taking into account the uncertainties that the programs may have.

報告書年度

2022

発行年月

2023/03

報告者

担当氏名所属

稲村 智昌

社会経済研究所

キーワード

和文英文
廃止措置 Decommissioning
放射性廃棄物処分 Radioactive waste disposal
原子力廃止措置機関 Nuclear Decommissioning Authority
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry