電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

SE21001

タイトル(和文)

EUタクソノミーにおける気候変動の緩和 -主要セクターのスクリーニング基準の分析-

タイトル(英文)

Climate Change Mitigation in EU Taxonomy - Analysis of Screening Criteria for Major Economic Activities-

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
EUでは、持続可能な経済活動に関する基準、いわゆる「タクソノミー」の制定が進んでいる。2020年7月に発効したEU規則2020/852(タクソノミー規則)に続き、2021年12月29日、委員会委任規則2021/2139が発効した。これは、様々な経済活動について、気候変動の緩和や適応への貢献を判断するスクリーニング基準を定めたものである。
目  的
温室効果ガスの排出量の大きい「エネルギー」「運輸」「製造業」「建築・不動産」と「研究開発等」に注目し、委員会委任規則 2021/2139 で定められた、気候変動の緩和に関するスクリーニング基準注1の内容や根拠等を明らかにする。
主な成果
1..経済活動の区分と定量的な閾値の設定(表1及び表2)
タクソノミー規則では経済活動に関する 3 つの区分が定義された。スクリーニング基
準では、個別の経済活動がそのいずれかに分類され、多くに定量的な閾値が設定された。気候変動の緩和に貢献する活動:「パリ協定の長期的な温度目標と整合」する活動と定義され、「エネルギー注2」「運輸」「建設・不動産」に該当する経済活動が含まれる。閾値の設定は一様ではないが、同一のセクター内では概ね共通している。
トランジショナルな活動(transitional activities)注3:「製造業」のうち多排出産業と、「運輸」「建設・不動産」の一部がこれに該当する。セクター間で閾値の設定の考え方は異な っており、また同一のセクター内でも個別の経済活動ごとに細かく設定されている。
可能にする活動(enabling activities)注4:「エネルギー」「運輸」「建設・不動産」に関する機器の製造等に加えて、排出削減に寄与する「研究開発等」が幅広く含まれる。閾値は、多くの場合、関連する気候変動の緩和に貢献する活動と同等である。
2.タクソノミー規則が定める要件のスクリーニング基準への反映
タクソノミー規則では、スクリーニング基準に求める要件が定められた。主な要件について、スクリーニング基準への反映状況は以下の通りであった。
ライフサイクルの考慮:ライフサイクルを考慮した閾値が設定されているのは「エネルギー」のみである。「運輸」「製造業」「建設・不動産」では、いずれも既存の EU 法等で定められた値が参照されており、ライフサイクルを考慮した閾値にはなっていない。
技術中立性の尊重:同一のセクター内であってもスクリーニング基準が異なっている部分が見られる。例えば、再エネの中でも、太陽光や風力等は閾値なし(全て適合)とされたのに対して、地熱等については閾値が設定されている(水力は規模により閾値の有無が異なる)。また、送配電や熱供給では、輸送の対象である電力や熱に対して閾値が設
定される一方で、低炭素ガスの輸送・供給では、そのような閾値は設定されていない。既存のEU法等の考慮:既存の基準をそのまま閾値に設定したものもあれば、既存の基準
のアプローチを参照しつつ独自に閾値を設定したものもある。
3.EUタクソノミーにおける「トランジショナルな活動」
スクリーニング基準では、いくつかの異なるアプローチで、トランジショナル(過渡的)な閾値が定められた。
期限付きの閾値:「運輸」では、トランジショナルな活動の多くは「2025 年まで」という期限が設定されており、閾値自体がトランジショナルな性格を有する。
閾値の見直しの制度化:タクソノミー規則で閾値の定期的な見直しを定めていることに加え、既存の制度(例えばEU-ETS)に紐づいて見直される閾値もある。
注1)委員会委任規則 2021/2139 に定められたスクリーニング基準には 88 の経済活動が含まれるが、本報告ではこのうち71の経済活動が対象。なお、原子力や天然ガスについては、委員会委任規則2021/2139に含まれていない(2022年月2日に欧州委員会が別の委員会委任規則の採択を決定したが発効していない)ため、本報告の対象ではない。
注2) 委員会委任規則 2021/2139 では「製造業」の章に記載されている「水素製造」「アンモニア製造」についても、基準の内容の類似性に鑑み、本報告では「エネルギー」に区分した。
注3) 気候変動の緩和に貢献する技術的・経済的に実現可能な代替案がない場合に、段階的な排出削減等により、気候中立経済への移行を後押しする経済活動。
注4)他の経済活動が気候変動の緩和に貢献することを可能にする経済活動。
注5) 貯水池面積あたりの出力が 5W/m2 以上、もしくは人工貯水池のない流れ込み式水力は閾値なし、それ以外はライフサイクルGHG 排出量が100gCO2e/kWh 未満。

概要 (英文)

In this report, we conducted in-depth analyses for the screening criteria for climate change mitigation objective of the EU Taxonomy which was established by the Taxonomy Regulation (Regulation (EU) 2020/852). The Taxonomy Regulation established three categories for economic activities. In the screening criteria, the first category, economic activities that contribute to climate change mitigation include those consistent with the long-term temperature objective of the Paris Agreement, and include those within the energy, transport, and construction and real estate. The second category, transitional activities include manufacturing, transportation, and construction and real estate. The third category, enabling activities include a wide range of activities that contribute to emission reductions, such as research and development and manufacturing of equipment. The Taxonomy Regulation also set the requirements on screening criteria, however, the reflection of them was not consistent among sectors. "Consideration of life-cycle" was reflected in the screening criteria for energy, but not for transport, manufacturing, construction, and real estate. "Technological neutrality" was not reflected in several economic activities: for example, conditions for eligibility are different between transmission of electricity and "renewable and low-carbon gases". "Existing EU legislation" is considered among various sectors. Finally, screening criteria for transitional activities has thresholds with "transitional" role: by setting a time limit of "by the end of 2025", or by institutionalizing a periodic review of thresholds either by the Taxonomy Regulation or by existing institutions (e.g. EU-ETS) tied with the threshold.

報告書年度

2021

発行年月

2022/02

報告者

担当氏名所属

富田 基史

サステナブルシステム研究本部 気象・流体科学研究部門

堀尾 健太

社会経済研究所

キーワード

和文英文
持続可能性 Sustainability
サステナブルファイナンス Sustainable Finance
トランジション Transition
気候変動 Climate Change
欧州連合 European Union
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