電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

O18001

タイトル(和文)

科学技術に対する人々の価値意識とリスクコミュニケーション-「中間群」の出現とアプローチの可能性-

タイトル(英文)

Social value-consciousness for science and technology and its imprications to risk communication- The emergence of 'intermediate groups' and possible approach to them -

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背 景
人々が各々に抱いている価値意識(価値観)や信頼感は、科学技術のリスク認知や受容においても、直感的な手がかりとして大きな影響を持つ。また、福島第一原子力発電所事故は、科学技術の利用によって生じる望ましくない影響の大きさと、そのリスクに対する備えについて、人々の意識を変化させた。さらに、情報環境の高度化や複雑化もその変化に拍車をかけ、強固な価値意識を持つ人々だけでなく、判断を回避する人々をも増加させている可能性がある。信頼関係に基づいたリスクのガバナンスを目指すリスクコミュニケーションを進めるには、人々の科学技術・リスク観を受け止め、共に考える姿勢が重要である。
目 的
アンケート調査を用いて、科学技術の利用とリスクに対する考え方を分析し、社会属性、社会への関心や日常的な考え、原子力発電利用に対する考えとの関係を踏まえて、人々が重視する価値やその分布から、リスクコミュニケーションへの示唆を得る。
主な成果
全国の大都市圏に居住する成人を対象として、インターネット調査会社のモニター会員から、20歳以上80歳未満の男女で均等割り付けを行い、3,840サンプルを回収した(2018年2月実施)。
1. 科学技術リスク観による4群の抽出と中間群の出現
科学技術に対して共通する見方(生活に必要だが扱い方次第でリスクはゼロにはならない)がある一方、リスクを伴う科学技術をどのように利用していくべきかの判断(科学技術リスク観)は分かれた。図1に示すクラスタ分析により、①必要性を強く認識し、コントロール感を持ち、利便性のためにリスクを受容する合理主義的な人々(合理群)、②科学技術の必要性や重要性も含めて全般的に態度を保留する関心が低い人々(保留群)、③コントロール感が最も弱く漠然とした懸念は強いものの、利便性を享受するにはリスクを受容しながら利用せざるを得ないと考えるジレンマ状況にある人々(譲歩群)、④コントロール感が弱く懸念を持ち、少しでもリスクがあるものは使用すべきではないと考える懐疑主義の人々(懐疑群)、の4群を抽出した。いわゆる物言わぬ多数派として一括りにされがちな人々の中に、②の保留群だけではなく、③の譲歩群の2層の中間群がいることを明らかにした。中間群は、若い年代、女性にやや多く、社会への関心や他者への関わりに消極的で、私生活を重視する傾向に特徴がある以外は、どの立場も追認する(積極的な)中庸志向もしくは(消極的な)認識の曖昧さがある(図2、図3)。
2. 原子力発電利用に対する考えと科学技術リスク観:全ての層に共通する意見や懸念
原子力発電に対しては、保留群でも5割以上が関心を持ち、懐疑群だけでなく他群も、利用に伴うリスクについての関心や不安感が高い。また、情報内容や情報源に対する信頼の高低は、安全性向上にポジティブな内容であるかどうかよりも、自らの価値意識に整合的であるかどうかによる影響を受ける。ただし、第三者の意見反映などのコミュニケーションプロセスを経ていることを示す情報は、共通して信頼を高める(図3)。
3. リスクコミュニケーションにおける中間群へのアプローチ可能性
中間群(保留群・譲歩群)が、新たな情報を自ら入手して判断を形成する意思を持ち合わせていないのであれば、当面の最善策は消極的な承認を得ることになろう。ただし、保留群は、社会に目を向ける余裕がない故に関心が低い、あるいは判断を保留して(消極的な)白紙委任をしているだけで、信頼して任せるという意思も明確ではない。また、譲歩群の存在は、リスクへの懸念の強さは懐疑群に匹敵するも、ベネフィットと比較衡量するジレンマを認めるが故に曖昧な位置をとる人々が多数いることを示唆した。対話や意見表明は期待しにくいものの、趨勢は見守っており、リスクコミュニケーションでは、価値をめぐる熟議が中間群にも広く開かれていることが重要であろう。

概要 (英文)

The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident caused a drastic change of people's senses of value about the magnitude of the undesirable side effects of science and technology (S&T), as well as their preparation for those risks. There is a presumption that besides people with strong emotion, outrage and other senses of clear values, people who feel lost about and/or are eager to avoid judgment by themselves emerged and are increasing.
An internet survey was conducted for residents in metropolitan areas throughout Japan aiming at grasping people's senses of values towards S&T in general, and nuclear power generation in particular. As the result, we extracted 4 clusters among respondants, namely: (1) People who recognize conveniences strongly, have sense of efficacy, accept risks for benefit of S&T (Rationalist Group), (2) people who are not interested in S&T, and thus not quite sure about how they should think (Hesitance Group), (3) people who have strong concerns but yet accept risks in exchange of adequate benefit (Dilemma Group), (4) people who have such strong concerns that those S&T carrying risks at any level should be prohibited (Skeptism Group).
As implications for risk communication, those intermediate groups, i.e. Hesitance and Concession, are reluctant or even refuse to acquire information on S&T, or nuclear power in particular. As a viable approach to them, owners and operators should first strive for safe operation of the plants, and thereby achieve trust and passive admission of their businesses.

報告書年度

2018

発行年月

2018/12

報告者

担当氏名所属

桑垣 玲子

社会経済研究所 事業制度・経済分析領域

キーワード

和文英文
価値意識 Social Value Consciousness
リスクコミュニケーション Risk Communication
科学技術 Science and Technology
原子力発電 Nuclear Power Generation
インターネット調査 Internet Survey
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry