電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
NR22001
タイトル(和文)
竜巻風速ハザード曲線の統計的信頼限界の推定法(その2)
タイトル(英文)
Estimation method of statistical confidence limits of tornado wind hazard curves, Part 2
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背景
当所では沿岸立地原子力発電所を対象として竜巻風速ハザード評価モデルTOWLA(注1)を開発している.希にしか発生しない竜巻のサンプリング誤差を評価するために,前報(注2)では欠測データの無い理想的な竜巻データセットを対象に,ハザード曲線の統計的信頼限界推定法を開発した.しかし我が国の竜巻記録の場合,竜巻諸元が不明な竜巻データを多く含み,藤田(F)スケール(注3)毎の竜巻データの確度も観測年代により異なるなど理想的なデータでは無い.このため,開発した推定法の実データへの適用には課題が残されている.
目的
前報で開発した信頼限界推定法を基に,我が国の竜巻記録に適用できる手法を提案し,その妥当性を検証する.更に,様々な誤差が竜巻ハザードの不確実性に及ぼす影響を評価する.
主な成果
1. 風速ハザード曲線の信頼限界推定法の改良
竜巻の特性は3種類のデータ(竜巻風速,被害長さ,被害幅)に関する対数正規分布(9個のパラメータ)で表され,竜巻風速ハザードの信頼限界はこれら9個のパラメータの分散や9×9の相関行列から求められる.前報では相関行列などは理論的に得られる解析解から求めたが,本報告書では観測年代によりデータの確度が異なるという我が国の竜巻記録の特徴を考慮した竜巻データ(時系列)をランダムシミュレーションする手法を構築し,作成した多数の竜巻時系列を解析することにより相関行列などを求める改良手法を提案した.
2. 提案手法の検証
太平洋沿岸の陸域(5km幅)を竜巻検討地域として竜巻記録を分析した(図1).分析された竜巻特性を期待値とする竜巻時系列を4000個作成し(表1),分散や相関行列を求めた.竜巻検討地域の竜巻特性を再現したケースなど計10ケース(表1)を対象に,風速ハザードの信頼限界を推定した(図2).本提案法の推定値をモンテカルロ法に基づく推定値と比較した結果,両者は良く一致し(図3),計算時間は1/200以下に抑えられた.竜巻記録に不明なデータが含まれると信頼区間の幅が広くなる.風速をFスケールで表現すると風速に関する相関係数が小さく推定され,ハザード風速も若干小さく評価される(図3).
3. 様々な誤差がハザードの不確実性に及ぼす影響
発生数の不確実性に起因する誤差,Fスケールの評定誤差およびFスケールからJEFスケール(注4)への変換誤差(図4)が,ハザードの不確実性に及ぼす影響を評価した.Fスケールの竜巻記録(55年間)をJEFに変換し,2016年以降のJEFスケールの記録と合体して記録期間の延長を図ることがハザードの推定精度向上には重要であることを指摘した.
今後の展開
過去のFスケールの竜巻記録(55年間)を新しいJEFスケールに変換する手法を開発することにより,ハザードの推定精度向上を図る.
(注1)「沿岸立地原子力発電所の竜巻風速ハザードモデルTOWLAの開発」,電力中央研究所 研究報告:O15005,2016.
(注2)「竜巻風速ハザード曲線の統計的信頼限界の推定法」,電力中央研究所 研究報告:O19005,2020.
(注3)竜巻の被害状況から風速を大まかに推定する離散的な指標(正の整数).大きなF値は風速が大きいことを表す.
(注4)Fスケールを改良し,2016年から導入された日本版改良藤田スケール(Japanese Enhanced Fujita Scale: JEF).
概要 (英文)
We have developed the tornado wind speed hazard model for limited area (TOWLA). In the previous report, the estimation method of statistical reliability limits was developed for an ideal tornado dataset. The purpose of this study is to improve the method so that it can be applied to Japanese tornado database, which includes many unknown tornado data. A random simulation model for tornado dataset is developed in order to simulate the Japanese tornado records, and a numerical analysis method is used to evaluate variance-covariance (or variance-correlation) matrix of 9 parameters (3-D lognormal distribution) instead of the theoretical method in the previous report. The land area (5km width) along the Pacific coastline was selected as a tornado study area, and tornado records for the 55 years were analyzed. Hazard curves and confidence limits estimated from the proposed method show good agreements with that of the Monte Carlo method in all 10 cases. The following results are obtained: When tornado dataset contains unknown data, the confidence interval becomes wide. When tornado wind speeds are expressed as a discrete F Scale system, the hazard wind speed will be underestimated. When a period of tornado records is 10 years, the confidence interval is twice of that of 55 years. This report also discusses impacts of various errors on hazard uncertainty. In order to reduce uncertainty of hazard curve, it is necessary to combine F Scale and JEF Scale dataset into one using an appropriate F-JEF conversion matrix.
報告書年度
2022
発行年月
2022/09
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
平口 博丸 |
原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム |
共 |
野原 大輔 |
原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム |
共 |
江口 譲 |
原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム |
共 |
服部 康男 |
原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム |
共 |
杉本 聡一郎 |
原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
竜巻 | Tornado |
ハザード曲線 | Hazard curve |
統計的信頼限界 | Statistical confidence limit |
日本版改良藤田スケール | Japanese Enhanced Fujita Scale |
藤田スケール | Fujita Scale |