電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
N06028
タイトル(和文)
地下水中炭酸水素イオンによるセメント系材料の溶脱抑制メカニズムに関する検討(その1)
タイトル(英文)
Mechanism of Leaching Inhibition of Cementitious Materials due to Hydrogencarbonate Ion in Groundwater
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物のうち,比較的放射能レベルの高いものを対象に,余裕深度処分の検討が日本原燃(株)を中心に鋭意進められている。
地下深度約50~100mの空洞内に建設が予定さている余裕深度処分施設の設計概念は,地中に処分するこによる岩盤の天然バリア性能を期待するとともに,地下水流動を抑制することを主目的とした低透水層(ベントナイト),および主に廃棄体からの放射性核種の移行を抑制するための低拡散層(モルタル)といった人工バリアを構成することによって,余裕深度処分の安全性を確保しようとするものである。これら人工バリアの低透水性や低拡散性といった機能を,安全評価上,千年以上の長期にわたり維持することが期待されており,設計における対策検討とともに,人工バリア性能を評価することが重要となっている。
低拡散層の性能に影響を及ぼす代表的な要因として溶脱現象が挙げられる。セメント系材料中のセメント水和物は,地下水との長期接触により徐々に溶出し,組織が多孔化していく。この変質が低拡散層まで及ぶと,放射性核種の拡散係数が増大するなど,バリア性能の低下を引き起こすことになる。他方では,セメント系材料の溶脱に伴うカルシウムイオンを含んだ高pH間隙水の作用が,低透水層(ベントナイト)の膨潤性能を低下させ,バリア性能を悪化させる可能性も懸念されている。このような背景から,セメント系材料の溶脱現象の解明,およびその評価が,人工バリアの長期性能を実証する上で,最も重要な課題の一つとして位置付けられている。
従来,溶脱によるセメント系材料の変質は,イオン交換水や蒸留水などを用いた実験結果に基づいて評価されることが主であり,これらの方法が処分施設の設計や安全評価において検討されている。これに加え,より現実的な現象を理解し評価していくことで,処分施設評価の説明性を向上しようとする検討も効果的であり,必要と考えられる。またその一方では,セメント系材料のより現実的な評価により,溶脱に対する設計対策の合理化につながる可能性も考えられる。
より実現象を反映した評価アプローチの一つとして,セメント系材料の溶脱に及ぼす地下水中イオンの影響の解明およびその評価が挙げられる。地下水中には様々なイオン(例えば,HCO3-,Cl-,SO42-,NO3-,Na+,K+,Ca2+,Mg2+など)が含まれており,溶脱に及ぼす影響も未だ不明な点が多く,定量的な評価が難しい状況にある。本研究では,地下水中イオンの代表的なものとして,また高pH条件下でカルシウムイオンと反応しCalcite(炭酸カルシウムCaCO3)の沈殿を生じる可能性のあるものとして,炭酸水素イオンに着目し,セメント系材料の溶脱に及ぼす影響を実験的に調べた。
セメント・コンクリート分野においては,大気中の炭酸ガスがセメント系材料中の細孔溶液に溶解し,セメント系材料のアルカリ性が徐々に失われていく,いわゆる中性化現象に対する研究が古くからなされ,中性化による緻密化現象も多々報告されている。一方,炭酸水素イオンを含んだ溶液の作用が,セメント系材料の物性に与える影響については,金子ら,柴田らによって透水係数の低下現象が示され,柴田らは炭酸水素ナトリウム溶液通水試験における二次鉱物の沈殿性状や空隙構造変化を報告している。また,渡邉らは,炭酸水素イオン濃度140 mg/dm3以上の高濃度炭酸水素ナトリウム溶液へのモルタル(W/C=0.8)の浸漬実験を行い,Calciteの沈殿や,透水係数や拡散係数が減少することを確認している。このように,炭酸水素イオンがセメント系材料物性に与える影響の検討は徐々に進みつつあるものの,溶脱に対して定量的な影響評価を行った検討は見られない。したがって,本研究では,炭酸水素イオン濃度の異なる(4, 40, 400 mg/dm3)3種類の溶液を用いてセメントペースト供試体(W/C=0.35)の溶液交換法浸漬試験を実施し,浸漬溶液のpH変化や溶出イオン濃度の分析,また供試体固相の物性分析を行って,溶脱に及ぼす溶液中炭酸水素イオン濃度の影響を評価した。その結果,炭酸水素イオン濃度が高くなるほど,溶脱が抑制されることが明らかとなり,この溶脱抑制効果は供試体表面におけるCalciteの沈殿に起因することを示した。
概要 (英文)
Upgrading durability-performance evaluation technique for concrete is urgently demanded in connection to its application to radio-active waste repository which needs ultra long-term durability. The purpose of this research is to evaluate the effects of groundwater components on the leaching of cementitious materials. This paper presents the results of an experimental study on the effects of hydrogencarbonate in immersion solution on leaching of cementitious materials as the initial step of the study. It was clarified that hydrogencarbonate reacted with calcium leached from specimen to form a calcite layer on the surface of specimen, which inhibited leaching of cementitious materials. It was found that the higher the concentrations of sodium hydrogencarbonate, the less cementitious materials were leached.
報告書年度
2006
発行年月
2007/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
蔵重 勲 |
地球工学研究所 バックエンド研究センター |
共 |
廣永 道彦 |
地球工学研究所 バックエンド研究センター |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
放射性廃棄物処分 | Radioactive Waste Disposal |
セメント系材料 | Cementitious Materials |
耐久性 | Durability |
溶脱 | Leaching |
炭酸水素イオン | Hydrogencarbonate Ion |