電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
H19006
タイトル(和文)
電力流通設備における大電流アーク現象とその対策技術
タイトル(英文)
High current arc phenomena and its countermeasures on power transmission, power transformation, and power distribution facilities
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
電力流通設備において地絡・短絡故障による大電流アークが発生した場合,当該設備が著しく損傷するとともに他の設備にもその影響が波及・拡大することもある。当所ではこれまでに大容量電力短絡試験設備を用いてアーク現象やその対策技術に関する多くの研究を行っており,その成果が1988年度に総合報告として取り纏められ公刊された注1)。これはその後のアーク対策技術の見直しや開発などにも活用され,安全・安心な電力流通設備の構築に貢献してきたが,その公刊から現在まで約30年が経過している。この間にも新しい成果が得られておりそれらを総合的に取り纏めておくことは,今後の電力流通設備のアーク対策技術への活用という観点以外にも,当所やメーカーを含む電力業界における技術継承という観点からも有意義と考えられる。
目 的
電力流通設備における大電流アーク現象とその対策技術について,当所が1989年度から2019年度までの30年程度の間に実施した研究における主な成果を整理するとともに,今後の研究課題を抽出する。
主な成果
この30年程度で得られた主な成果を整理するとともに今後の研究課題を抽出した結果を表1に示す。具体的な内容は次の通り。
1. 大電流アークの基礎特性
(1.1) アークジェット注2)の基礎特性:高温・高速流のアークジェットの計測技術を開発し,アークジェットの温度や流速などの特性を解明した。これらは,アークジェットが周辺機器に及ぼす熱的影響の解明およびその対策技術の開発に活用できる。
(1.2) アークによる圧力上昇:CFD注3)解析技術を活用して,空気やSF6等の気体や絶縁油等の液体においてアークが発生した場合の圧力上昇シミュレーション技術を開発した。これは,実設備で故障が発生した場合の圧力上昇の予測に活用された。
2. 送変電設備の大電流アーク対策
(2.1) 架空送電線のアーク溶断特性:交流アークによる電力線の溶断特性や,雷撃を模擬した直流アークによる架空地線の溶断特性を実験的に明らかにするとともに,これらの電線の溶断特性の計算手法を開発した。この手法で故障発生時の電線の溶損・溶断状況を予測することにより効率的な保守点検業務への貢献が期待できる。
(2.2) 雷害対策装置:アークホーンの先端に有機絶縁材料からなる筒状の遮断部を取り付けることにより,雷撃時の地絡・短絡電流を現場で遮断できるアークホーンを共同開発し,それらは日本の多くの電力会社に導入されている。
3. 配電設備の大電流アーク対策
(3.1) 地中配電線の故障時の様相:電力ケーブルの地絡・短絡故障が通信ケーブルに及ぼす電気的・熱的影響や,両ケーブルの必要な離隔距離が0.1 m以上であることを実験的に明らかにし,それらの結果が電技注4)の改正に使用された。また,CFD解析技術を活用して,防護管内や電線共同溝内の短絡故障でアークが発生した場合の圧力上昇・伝搬の様相を予測できるシミュレーション技術を開発した。
(3.2) 電気盤のアーク対策:高圧・低圧電気盤内の短絡故障のアークが発生した場合でも電気盤内で火災が発生しないアークエネルギーの閾値を実験的に明らかにした。これにより,原子力発電所内の電気盤への適切な火災防護対策の実施が進められている。
4. 今後の研究課題
今後の研究課題例として以下の項目を抽出した。
・電力機器でアークが発生した場合の機器の破損特性の予測手法および対策技術の開発
・電線上をアークが移動する場合の溶断特性の予測手法およびその活用技術の開発
・故障アークがポリマーがいしの電気絶縁特性に及ぼす影響解明および対策技術の開発
注1) 深川,他:「送配電設備における大電流アーク現象とその対策」,電力中央研究所総合報告W04 (1989年1月)。1960年代以降に当所が実施した研究における主な成果が取り纏められている。
注2) アークが発生した電極から,金属粒子・蒸気を多量に含んで噴出する高温・高速流のプラズマ流であり,その周囲の電力機器に大きな熱的影響を及ぼす可能性がある。
注3) 数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)
注4) 電気設備の技術基準の解釈
概要 (英文)
When short-circuit faults occur accidently in electric power transmission, power transformation and power distribution systems, high current arcs may be generated in electric power facilities and equipment, and the arcs can cause a terrible damage to the facilities and equipment. CRIEPI therefore have performed a number of significant researches on fundamental properties of high current arcs and concrete countermeasures of power facilities and equipment in actual fields against high current arcs, and in FY1988 CRIEPI made a useful report summarizing those results described above. This report presents key achievements obtained between FY1989 and FY2019 (30 years) regarding high current arc phenomena and its countermeasures on power transmission, power transformation, and power distribution facilities and equipment.
報告書年度
2019
発行年月
2020/03
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
岩田 幹正 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
共 |
田中 慎一 |
電力技術研究所 大電力試験所 |
共 |
古川 静枝 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
共 |
大高 聡也 |
電力技術研究所 |
共 |
宮城 吏 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
共 |
田所 兼 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
共 |
神足 将司 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
共 |
中野 智之 |
電力技術研究所 大電流・アーク現象領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
送電設備 | Power transmission facility |
変電設備 | Power transformation facility |
配電設備 | Power distribution facility |
大電流アーク | High current arc |
対策 | Countermeasure |