電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
H19002
タイトル(和文)
巻線位置ずれを考慮した電力用変圧器の階層的な故障確率評価-過去データがない場合の周波数応答解析(FRA)による巻線位置ずれ有無の診断-
タイトル(英文)
Hierarchical Evaluation of Failure Probability of Power Transformer Concerning Axial Displacement of Winding -Detection of Winding Displacement by Frequency Response Analysis (FRA) without Past-Measured Reference Data-
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背景
電力用変圧器(変圧器)の改修計画は,故障時の系統への影響度を故障確率から評価し,立案することが推奨されている(注1)。故障様相としては,変圧器外部での短絡時の電磁機械力による絶縁紙やプレスボードの破損が想定される。当所は電磁機械力が巻線軸方向位置ずれ(注2)で増大する可能性に着目し,これを考慮したプレスボード破損確率(変圧器故障確率)評価法を提案している[1][2]。巻線位置ずれ量診断には周波数応答解析(FRA)(注3)を当所では推奨しているが,比較のためのFRA過去データが必要である。しかし主な適用対象の高経年変圧器には過去データがないことが多い。巻線位置ずれ診断の実施の有無や過去データの有無など寿命評価に必要な情報の量に応じ階層化した手法を構築すればより多くの実変圧器への適用が可能となる。
目的
FRAの過去データがない場合の巻線位置ずれ有無の診断法を提案する。また,評価精度と過去データの有無等の適用条件を数段階に分けた変圧器故障確率の階層的評価法を提案し,その評価例を示す。
主な成果
1. FRAの過去データがない場合の巻線位置ずれ有無の診断手法の提案
前報[2]では,FRAにおける伝達関数測定種別(注4)のうち巻線間誘導性測定の特定の共振を過去データと比較する,巻線位置ずれ量診断法を提案した。本報告では,この共振を3相変圧器の各相の伝達関数データを比較することで,過去データなしで巻線位置ずれの有無のみを診断する手法を提案した。さらに提案手法をW相低圧巻線が位置ずれした(傾いた)実変圧器(注5)に適用し,その有効性を確認した。
2. 巻線位置ずれを考慮した変圧器故障確率の階層的評価法の提案とその評価例
巻線位置ずれに対して,診断を行わない場合(階層1),FRA過去データがなく巻線位置ずれの有無のみを診断する場合(階層2),定量診断を行う場合(階層3)に分けた変圧器故障確率の階層的評価法を提案した。階層2は上記で提案した巻線位置ずれの有無診断手法により実施可能である。提案法により,変圧器故障確率評価の適用対象が広がった。また,変圧器寿命基準を仮に変圧器故障確率5%(注6)とし,60kV級変圧器(注7)を例に寿命レベルとなるプレスボード平均重合度(注8)を各階層に対し計算した。さらに,経年熱劣化によるプレスボード平均重合度の低下推移を計算し(注9),寿命レベルとなる経年の評価例を示した。これにより,巻線位置ずれ診断をしない場合(階層1)よりも,その有無の診断を行った場合(階層2),更に位置ずれの定量診断を行った場合(階層3)に,より劣化した状態まで変圧器を運用できることを示した。
注1)電気協同研究,第65巻,第1号,「電力用変圧器改修ガイドライン」では,変圧器故障確率を用いた改修の考え方の例を示している。
注2) 内鉄型変圧器では,同軸状の巻線間にスペーサが挿入され,巻線が水平方向に位置ずれすることは想定しにくい。
注3) FRAでは変圧器巻線の端子に電圧源を接続し,他端子との電圧比を広い周波数帯域で測定して伝達関数とする。変圧器が健全時に測定しておいた過去データと比較した変化の有無から巻線異常を診断するのが基本である。
注4) 国際規格IEC60076-18:2012では,測定ケーブルを接続する変圧器端子や他端子の状況(開放,短絡,および接地)の違いにより,端子間開放測定,端子間短絡測定,巻線間容量性測定,巻線間誘導性測定の4種を規定している。
注5) 雷サージの侵入により故障した,定格容量20MVA,定格電圧75.25/22kVの変圧器。
注6) 寿命レベルは運用者が決定するが,ここでは統計的な外れ値の検討でしばしば用いられる基準である5%を用いた。正規分布を仮定すると(平均±2×標準偏差)の範囲外のデータが約5%となる。
注7) 関連報告書[1]のモデル1の変圧器(定格容量5MVA,定格電圧63/6.6kV)を対象とした。
注8) 絶縁紙やプレスボードの劣化指標として平均重合度がある。平均重合度は初期1000程度から劣化に伴い低下する。
注9) 関連報告書[3]の手法を用いた。変圧器の熱劣化解析に必要な熱的特性および負荷条件については注6)の変圧器とは異なる実変圧器のもので代用した。
関連報告書:
[1] H15002「外部短絡時電磁機械力による電力用変圧器の故障確率-巻線の構造異常と絶縁物の劣化推定を考慮した評価-」
[2] H18002「巻線位置ずれを考慮した電力用変圧器の故障確率評価-周波数応答解析(FRA)による巻線位置ずれ量診断-」
[3] H11026「温度履歴解析に基づいた66~275kV油入変圧器の絶縁紙の劣化推定手法」
概要 (英文)
Fault probability is an essential parameter in planning the refurbishment of power transformers. One of the main causes of faults of power transformers is a break of insulators such as insulation papers and spacers (press boards) due to an electromagnetic force generated by high short-circuit current. CRIEPI had proposed the evaluation method of the fault probability concerning the axial displacement (AD) of winding as the electromagnetic force may increase due to it. In the proposed method, Frequency Response Analysis (FRA) is employed for a quantitative AD diagnosis method. However, in the proposed method, past-measured reference data, which is hardly present for real situations, is necessary. In this report, a hierarchical evaluation method of failure probability of power transformers considering the presence or absence of the past-measured reference data in the diagnosis of AD of winding in FRA. One of the key techniques in the proposed hierarchical evaluation is AD diagnosis without past-measured reference data. In this report, a diagnostic method of the AD by FRA without past-measured reference data is proposed focusing on the bipolar signature of resonance in transfer functions of inductive inter-winding measurement. Furthermore, an example of the hierarchical evaluation is demonstrated.
報告書年度
2019
発行年月
2020/05
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
宮嵜 悟 |
電力技術研究所 固体絶縁・劣化現象領域 |
キーワード
和文 | 英文 |
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電力用変圧器 | Power transformer |
故障確率 | Failure probability |
階層的評価法 | Hierarchical evaluation method |
巻線位置ずれ | Axial Displacement of Winding |
周波数応答解析(FRA) | Frequency response analysis (FRA) |