報告書番号

GD24011

タイトル（和文）

電力用油入変圧器の植物油使用による絶縁紙長寿命化評価 -温度履歴解析の適用-

タイトル（英文）

Lifetime Evaluation of Insulation Paper in Oil Immersed Power Transformer Using Natural Ester -Application of Temperature Calculation-

概要 （図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております）

背　　景
環境性や火災安全性の観点から，電力用油入変圧器（変圧器）の絶縁油として天然エステル油注1）（植物油）を適用した変圧器（植物油変圧器）の導入が進んでいる。しかし，植物油は鉱油と比べて単価が高く，変圧器導入コストの増加が課題である。一方，植物油は飽和水分量が高く，油浸絶縁紙の加水分解劣化注2）を抑制する性質があり，変圧器の長寿命化注3）が期待できる。これは巻線温度上昇限度の格上げが可能であることを意味しており，これにともない冷却器台数の削減等により製造コストを低減できる。変圧器の長寿命化による便益を定量的に評価するには，植物油変圧器における巻線温度上昇と絶縁紙寿命の関係を評価する必要がある。
目　　的
変圧器の長寿命化による便益を定量的に評価するために，植物油浸絶縁紙の熱劣化特性を取得する。また，取得した熱劣化特性を当所開発のソフトウェア（絶縁紙劣化評価ソフト）[1][2]に実装し注4），植物油変圧器の巻線温度上昇と絶縁紙寿命の関係を評価する。
主な成果
1. 絶縁紙劣化評価ソフトの植物油変圧器への拡張
絶縁紙劣化評価ソフトを植物油変圧器に拡張するために，植物油浸絶縁紙の熱加速劣化試験を実施し，平均重合度が初期値から半減するまでに要する時間（平均重合度半減時間）の温度特性注5）（図1）を取得した。これを同ソフトに実装し，植物油変圧器における絶縁紙の寿命評価を可能とした。
2. 植物油変圧器の巻線温度上昇と絶縁紙寿命の評価
実変圧器（定格電圧66 kV，定格容量15,000 kVA）を模擬した仮想変圧器を対象に，実負荷を模擬した負荷変動による巻線温度と絶縁紙の劣化推移を絶縁紙劣化評価ソフトで計算し，以下の結果が得られた。
（１）JEC 規格注6）の巻線温度上昇限度に準拠した場合
鉱油変圧器に対して植物油変圧器の絶縁紙寿命は，普通紙および耐熱紙ともに延伸し，耐熱紙では顕著な延伸がみられることがわかった（図2） 。
（２）IEC 規格注7）に基づいて巻線温度上昇限度を格上げした場合
植物油変圧器における負荷率に応じた巻線温度上昇と絶縁紙寿命の関係を定量的に評価した（図3）。鉱油変圧器に対して植物油変圧器は負荷率に対して大きな裕度を有することがわかった。また，鉱油変圧器の温度上昇限度となる負荷率において，植物油変圧器の巻線温度上昇はIEC 規格の規定値を下回ることから，冷却器台数の削減等による製造コストの低減の可能性が示唆された。

注1）植物から精製され，食用油と同じ分子構造（トリグリセリド）を有するものを天然エステル油（植物油）とよぶ。
注2）変圧器における絶縁紙の加水分解劣化は温度により促進される。このため，単に熱劣化とよぶこともある。
注3）変圧器の寿命は一般に絶縁紙の劣化による機械強度の低下で決まるとされており，植物油により絶縁紙の劣化が抑制されることは変圧器の長寿命化につながる。日本電機工業会規格JEM1463 では，絶縁紙の平均重合度が450 の時点を変圧器の寿命レベルとしている。
注4）既報告では鉱油浸絶縁紙の熱劣化特性を取得し，鉱油変圧器で使用される絶縁紙のみを評価対象としている。
注5）絶縁紙劣化評価ソフトでは巻線温度の経時変化を求め，各温度で加熱されたときの絶縁紙の平均重合度低下推移を計算する。この計算において，平均重合度半減時間の温度特性を用いる。
注6）JEC-2200-2014「変圧器」(2014)
注7）IEC 60076-14:2013 “Power transformers-Part 14: Liquid-immersed power transformers using high-temperature insulation materials” (2013)

関連報告書：
[1]GD22007「温度履歴解析に基づく電力用油入変圧器絶縁紙劣化評価手法の耐熱紙への拡張」（2023.06）
[2]H11026「温度履歴解析に基づいた66～275kV油入変圧器の絶縁紙の劣化推定手法」（2012.06）

概要 （英文）

The thermal deterioration of insulation paper is one factor that determines the lifetime of oil-immersed power transformers. It has been found that hydrolysis, which is the main factor causing the thermal deterioration of insulation paper, is retarded in natural ester than in mineral oil. In this study, we have evaluated the lifetime of the insulation paper by considering temperature changes in actual power transformers using natural esters. Accelerated thermal aging tests of insulation paper in rapeseed oil are conducted, and the lifetime extension of insulation paper in rapeseed oil is evaluated from the obtained deterioration characteristics. It has been confirmed that the lifetime of insulation paper in natural ester-immersed transformers is longer than that in mineral oil-immersed transformers, considering the reduction in a cooling performance based on the physical properties of natural ester. This result suggests that the use of natural esters can extend the lifetime of transformers or increase their operating temperatures.

報告者

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