電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD24003

タイトル(和文)

連系線潮流と周波数の常時計測データを用いたエリア慣性の推定手法

タイトル(英文)

An Area Inertia Estimation Method using Measurement Data of Tie-line Power Flow and Frequency under Normal Conditions

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
インバータ電源の導入拡大に伴う,電力系統に並列される同期発電機の減少により,電力系統の慣性が低下し,電源脱落時等の周波数変化率(RoCoF)が増加することが懸念されている1)。電源脱落時等のRoCoFは地点により異なり,事象が発生したエリア2)においては,系統全体と比較してRoCoFが大きくなり,そのRoCoFの大きさは当該エリアの慣性合計(エリア慣性3))の影響を強く受ける。このため,周波数を維持していく上では,時々刻々と変化する慣性をエリア毎に把握し,一定以上確保していくことが重要となるが,慣性把握のための手法は確立されていない。
目  的
エリア慣性の低下が周波数安定性へ与える影響が特に大きい,系統の末端に位置するエリアを対象として,周波数と連系線潮流の常時計測データ4)からエリア慣性を推定する手法を提案する。また,その有効性をシミュレーションにより検証する。
主な成果
1.エリア慣性の推定手法の提案
 連系線潮流と周波数の常時計測データを用いてエリア慣性を推定する手法を提案した。本手法は以下の手順に従う(図1)。
①複数の計測地点における周波数データの加重和によって,エリアの慣性中心周波数f_coi5)の推定値f ̂_coiを算出する。重み係数は,並列中の各大容量発電機についての慣性定数および各計測地点との間のアドミタンスを基に決定する。
②スペクトル解析により連系線潮流からf ̂_coiへの伝達関数を同定する。
③エリア間の長周期動揺に対応する周波数帯における同定結果からエリア慣性の推定を行う。
本手法の特長は,常時計測データからエリア慣性の推定を行える点であり,オンラインでのエリア慣性の推定に適用可能と考えられる。
2.電力系統動特性解析プログラム(Y法)を用いた有効性の検証
 電気学会WEST30機系統モデルを用いたY法シミュレーション(図2)により,提案手法の有効性を検証した。同モデルには需要側慣性は無いため,需要側慣性として負荷ノードに同期調相機を追加した6)。エリア慣性の推定結果と,並列発電機および需要側慣性の慣性合計を比較した結果,エリア間の長周期動揺成分が比較的顕著なエリア(エリア1,エリア5,エリア6)については,エリア慣性を良好に推定できることを確認した(図3)。
1) RoCoFが過大になると,インバータ電源が解列し,周波数がさらに大きく低下する恐れがある。
2)系統全体ではなく,系統の一部の地域(各一般送配電事業者が管理・運用する地域等)を指す。
3)系統の慣性としては,大容量発電機の慣性合計(並解列情報および慣性定数により算出可能)に加えて,個別に把握することが困難である自家用発電設備や回転機負荷等の需要側慣性の寄与がある。
4)外乱時の計測データを用いる手法では,外乱発生時に事後的な推定を行うこととなる。外乱発生に備えてエリア慣性を把握・管理するためには,常時計測データを用いる必要がある。
5)fcoiは,エリア内の各発電機の慣性比率で各発電機の回転数の加重和を取ったものと定義され,エリアの平均的・中心的な周波数を表す。
6)本項で示す例では,エリア内の並列発電機による慣性合計の50 %を需要側慣性として追加した。

概要 (英文)

The reduction in power system inertia could lead to an increase in the rate of change of frequency (RoCoF) when a loss of generation occurs, leading to reduced frequency stability. The RoCoF of an area where a loss of generation occurs is larger than the average RoCoF of the entire system, and the RoCoF of the area is strongly affected by the inertia of the area. Therefore, it is important to estimate the area inertia in order to evaluate the frequency stability.
In this report, we propose a method for estimating the area inertia using measurement data of tie-line power flow and frequency under normal conditions. In addition, the effectiveness of the method is verified by simulations using the IEEJ WEST 30-machine system model. As the result, it was confirmed that the proposed method can effectively estimate the area inertia for areas where inter-area low-frequency oscillatory components are relatively significant.

報告書年度

2024

発行年月

2024/10

報告者

担当氏名所属

川村 智輝

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

天野 博之

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

キーワード

和文英文
慣性推定 Inertia Estimation
系統監視 Power System Monitoring
周波数安定性 Frequency Stability
スペクトル解析 Spectrum Analysis
PMU Phasor Measurement Unit
Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry