電力中央研究所

報告書「電力中央研究所報告」は当研究所の研究成果を取りまとめた刊行物として、昭和28年より発行されております。 一部の報告書はPDF形式で全文をダウンロードすることができます。

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD23018

タイトル(和文)

収束性・精度改善を目的とした大規模電力系統の固有値解析手法の改良-ランチョス法の双直交性を向上させる計算手法-

タイトル(英文)

Improvement of Modal Analysis Method for Large-Scale Power Systems for Fast Convergence and High Precision -A Calculation Method Enhancing Biorthogonality of the Lanczos Method-

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
電力系統の微小擾乱に対する安定性を表す定態安定度は,系統特性を線形近似することで十分に表現可能であることから,固有値解析により効率的に評価できる。このため当所では,電力系統定態安定度解析プログラム(S法)注1)を開発しており,大規模系統の複数の減衰性が悪い振動成分を高速に算出可能な固有値解析手法(以降,従来手法と称す)注2)を備えている。しかし,従来手法では,ランチョス法における初期ベクトル列の作成や反復計算でのベクトル列の更新において,精度よく固有値を算出するために重要な双直交性が維持されにくく注3),固有値算出の収束性や精度に改善の余地がある。
目  的
固有値算出の収束性や精度が向上するように従来手法を改良する。
主な成果
1. 双直交性を維持するための従来手法の改良
従来手法において,ランチョス法の各計算過程でベクトル列の双直交性が維持されるよう,以下の改良を行った(図1)。
・初期ベクトル列(X1,Y1 ):Y1 をX1の一般化逆行列とすることで,Y1^H・X1が単位行列(双直交である条件の1つ)となるようにした。
・反復計算で更新されるベクトル列(Xk,Yk ):特異値分解により算出される各行列を用いてベクトル列を更新することで,Yk^H・Xkが単位行列となるようにした。
2. 改良手法の効果検証
電気学会電力系統標準モデルのWEST30機系統注4)を用いて従来手法と比較を行った注5)。その結果,改良手法では従来手法と比較して,より精度の良い固有値が得られ(表1),減衰性の悪い固有値の算出数が増加し(表2),固有値の収束性がより速くなることが示された(図2)注6)。また,改良手法では,初期ベクトル列算出時の行列の乗算回数が半分になる注7)ことによる計算量の低減と,特異値分解等による計算量の増加が生じるが,前者の効果が大きく,計算時間としては従来手法と同程度以下となった(表3)。

注1) 電力系統統合解析ツールCPAT(CRIEPI’s Power System Analysis Tools)の1機能であり,以下の文献に基本ロジックが記載されている。
内田,長尾:「大規模電力系統の動揺モード解析手法の開発と実証」,電力中央研究所報告182004,1982.
注2) 減衰性の悪い固有値の絶対値を大きくするS行列変換と,絶対値の大きい数個の固有値を高速に求めるのに適したランチョス法をベースとした,大規模行列を低次元のブロック3重対角行列に近似する手法を組み合わせている。
注3) 2つのベクトル列について,i=jの時Yi^H・Xjが単位行列に,それ以外の場合は零行列になる時,このベクトル列の組は双直交性を持つという(Hは行列の共役転置を,iとjはそれぞれXとYの反復計算による更新回数を表す)。
注4) 電力系統標準化モデル調査専門委員会:「電力系統の標準化モデル」, 電気学会技術報告 第754号,1999.
注5) ランチョス法1回当たりの反復計算回数は30回とし,初期ベクトル列算出時の元の行列の乗算回数mを20回・30回とした2回のランチョス法で共通して算出された固有値を比較した。
注6) 正しい固有値の参考値として,全ての固有値を精度よく計算する手法であるQR法の結果を用いた。
注7) 初期ベクトル列計算時の行列のm乗の乗算が,従来手法ではX1とY1の2回,改良手法ではX1 の1回のみとなる。

概要 (英文)

Eigenvalue analysis is useful for efficiently analyzing steady-state stability of power systems. Accordingly, CRIEPI has developed the S-method, which is the steady-state stability analysis function of the CRIEPI's Power System Analysis Tools (CPAT). The S-method uses the biorthogonalization Lanczos algorithm and has an eigenvalue analysis method suitable for large-scale systems. However, it is not possible to maintain the biorthogonality of vectors during the computational process in the S-Method. As a consequence, the convergence and precision of eigenvalues calculated by the S-method can be improved.
This paper proposes an improved eigenvalue analysis method to enable high precision and fast calculation of eigenvalues. The proposed method uses generalized inverse matrix and singular value decomposition in order to maintain the biorthogonality of initial vectors and the vectors updated in Lanczos iteration. The proposed method is validated by IEEJ WEST30 machine system and its expanded 237 machine system model. The results indicate that the improved method can calculate eigenvalues more accurately and faster than the S-method.

報告書年度

2023

発行年月

2024/05

報告者

担当氏名所属

田村 潤

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

河村 集平

グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門

キーワード

和文英文
定態安定度 Small Signal Stability
固有値 Eigenvalue
固有ベクトル Eigenvector
ランチョス法 Lanczos Method
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