電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
GD22033
タイトル(和文)
急峻方形波インパルスを用いたSF6代替ガスとしてのF-ニトリルおよびF-ケトンの短時間領域絶縁破壊特性―大気圧・準平等電界下の絶縁破壊特性―
タイトル(英文)
Short-Time Region Dielectric Breakdown Characteristics of F-Nitrile and F-Ketone as SF6 Alternative Gases Using Steep-Front Square Impulse Voltage -Dielectric Breakdown Characteristics under Atmospheric Pressure and Quasi-Uniform Electric Field Condition-
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背景
SF6 ガスは,ガス絶縁開閉装置(GIS)などの電力機器に使用される優れた絶縁・消弧媒体であるが,地球温暖化ガスとして排出規制の対象となっている。近年,SF6 代替ガスの候補であるF-ニトリル注1)およびF-ケトン注2)系ガスを使用した機器開発・研究が進んでおり,当所でもこれまでに雷インパルス電圧を用いた基礎的な絶縁特性などに関する報告を行ってきた[1][2]。一方で,GIS においては,立上り時間が数ナノ秒~数マイクロ秒の急峻なサージ性過電圧注3)が侵入する[3]ことから,10 μs 以下のごく短時間領域における絶縁破壊特性に関する知見は,実用上重要である。
目的
F-ニトリルおよびF-ケトン系ガスを用いたSF6 代替ガスを対象に,立上り時間20 ns および波高平坦部持続時間10 µs の電圧を印加することのできる急峻方形波インパルス発生装置“SPARK”を用いて,GIS モデル電極におけるごく短時間領域の絶縁破壊特性を取得するとともに,一般的な絶縁・消弧媒体であるSF6ガスとの比較を行う。
主な成果
大気圧(0.1 MPa(abs))のF-ニトリル混合ガス注4)およびF-ケトン混合ガス注5)を対象に,準平等電界下(半球-平板電極)におけるごく短時間領域のV-t 特性,50 %スパークオーバ電圧(V50)および放電時間遅れ注6)に関して,以下の結果を得た。
1. 短時間領域におけるV-t 特性
F-ニトリル混合ガスおよびF-ケトン混合ガスのV-t 特性は,今回実験した全ての時間領域において,SF6 ガスよりも低いことが確認された。電圧ごとのスパークオーバ時間のばらつきは,これら混合ガスの方がSF6 ガスよりも大きいことが確認された(図1)。
2. 短時間領域における50 %スパークオーバ電圧
F-ニトリル混合ガスおよびF-ケトン混合ガスのV50は,SF6ガスの8 割程度であり,F-ニトリル混合ガスの方がF-ケトン混合ガスよりもわずかに高いことが確認された(図2)。
3. 短時間領域における放電時間遅れとスパークオーバ電圧の関係
F-ニトリル混合ガスおよびF-ケトン混合ガスの放電の形成時間遅れ(tf)は,SF6 ガスに比べて短いことが明らかとなった。これは,F-ニトリル混合ガスおよびF-ケトン混合ガスの絶縁性能がSF6ガスよりも低いことと関係している可能性がある。一方で,統計的時間遅れ(ts)については,SF6 ガスの場合,スパークオーバ電圧に対するばらつきは小さく比較的1 本の線で表されるが,F-ニトリル混合ガス,F-ケトン混合ガスの場合は全体にばらつきが大きく,特にスパークオーバ電圧が低いほど大きいことが分かる。このことから,F-ニトリル混合ガス,F-ケトン混合ガスのV-t特性のスパークオーバ時間のばらつきは,tsの影響が大きいことが判明した(図3)。
注1)3MTM NovecTM 4710 高機能性絶縁ガス(化学式:C4F7N)
注2)3MTM NovecTM 5110 高機能性絶縁ガス(化学式:C5F10O)
注3)実機器のGIS で発生するサージ性過電圧は,主に雷サージと断路器サージである。電圧の立上り時間は,雷サージで数100 ns ~ 数 μs,断路器サージで数 ns ~ 数100 nsである。
注4)C4F7Nを6 %,CO2を94 %を混合させたガス
注5)C5F10Oを6 %,O2を12 %およびCO2を82 %を混合させたガス
注6)印加電圧がスパークオーバ(絶縁破壊)電圧に達してから実際に全路破壊に至るまでの時間差のことであり,統計的時間遅れ(初期電子が出現するまでにかかる時間)と放電の形成時間遅れの和で表される。
注7)放電時間遅れの定量評価を効率的に実施するため,γ線照射による初期電子供給を行った。
関連報告書:
[1] H17009「SF6代替ガスとしての3MTM NovecTM 絶縁流体の基礎絶縁性能および分解生成物の毒性に関する検討」(2018.06)
[2] H20015「SF6代替ガスとしての3MTM NovecTM高機能性絶縁ガスの固体材料および水分との反応性に関する検討」(2021.07)
[3] H02「ガス絶縁機器の雷インパルス耐電圧レベルの合理的決定法に関する研究」(2005.07)
概要 (英文)
F-Nitrile (C4F7N) and F-ketone (C5F10O) are attracting attention as alternative gases to SF6 gas for power equipment applications such as Gas Insulated Switch-gear (GIS). In GIS, steep surge overvoltage with rise times of several ten nanoseconds to several microseconds enter the system, so knowledge of the breakdown characteristics of these gases in the short time region is important for practical use. This paper reports the voltage-time (V-t) characteristics and 50 % sparkover voltage (V50) in the short time region for 0.1 MPa(abs) F-nitrile mixed gas and F-ketone mixed gas using the steep-front and long-duration square pulse voltage generator "SPARK" which can apply a voltage waveform with a rise time of 20 ns and a flat part duration of 10 us. We also evaluated the discharge formation time lag (tf) and statistical time lag (ts) from the time information of the light emission accompanying the discharge observed by the photomultiplier tube. The V-t characteristics of these gases were confirmed to be lower than that of SF6 gas in all time regions. The V50 of these gases is about 80% of that of SF6 gas, and it was also confirmed that the F-nitrile mixed gas is slightly higher than the F-ketone mixed gas. The tf of these gases was confirmed to be shorter than that of SF6 gas which may affect the lower insulation performance of these gases than that of SF6 gas. The ts of these gases were observed to have greater variability than those of SF6 gas.
報告書年度
2022
発行年月
2023/08
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
阿部 剛志 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
新開 裕行 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
SF6代替ガス | SF6 alternative gas |
3M Novec 高機能性絶縁ガス | 3M Novec Insulating Gas |
ガス絶縁開閉装置(GIS) | Gas Insulated Switch-gear (GIS) |
急峻方形波インパルス電圧 | Steep-front square impulse voltage |
短時間領域絶縁破壊特性 | Short-time region dielectric breakdown characteristics |