電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
GD22020
タイトル(和文)
CVケーブル絶縁体中の架橋剤分解残渣が空間電荷挙動および電界分布に及ぼす影響
タイトル(英文)
Study on the Effects of Crosslinking Byproducts of XLPE Cables on Space Charge Behavior and Electric Field Distributions
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
洋上風力発電などの再生可能エネルギーの発電適地は電力の大需要地から遠方に多く存在するため,その有効活用には長距離電力輸送が必要であり,超高圧直流CVケーブルによる直流送電が注目されている。直流CVケーブルでは,直流電界下における空間電荷注1 )が絶縁性能を低下させる可能性が指摘されている。そこで当所では,空間電荷挙動を考慮した直流CVケーブルの絶縁性能評価法確立に向けて,パルス静電応力法注2)による空間電荷測定法を開発してきた注3)。ここで,CVケーブル絶縁体中に含まれる架橋剤分解残渣注4 )(以下,残渣)は,シート状試料による検討で空間電荷蓄積に影響を与えるとの指摘がある注5 )一方,ケーブル試料での検討例はほとんどない。当所が開発した測定法を適用することで,ケーブル試料内における残渣が空間電荷蓄積現象に及ぼす影響を把握できると期待される。
目 的
ケーブル試料を対象に,絶縁体中における残渣が空間電荷および電界分布に及ぼす影響を明らかにする。この結果をもとに,直流CVケーブルの運転電界20 kV/mmにおける空間電荷蓄積モデルを構築する。
主な成果
1. 一定・ヒートサイクル温度条件における残渣が空間電荷蓄積に及ぼす影響の把握
絶縁体に含まれる残渣量が異なる66 kV交流CVケーブル注6)に対し,導体温度を常温(約15℃),60℃,90℃一定条件およびヒートサイクル条件としたときの空間電荷分布を正負の直流電圧注7)を印加した条件(図1)で測定した。その結果,常温(約15℃)一定条件における23時間の正極性電圧印加時には,残渣量の多い試料(試料A)では明確な空間電荷の蓄積を観測した一方,残渣量の少ない試料(試料B)では,空間電荷の蓄積はほとんどみられなかった(図2)。さらに,導体温度60℃,90℃およびヒートサイクル温度条件においても,各温度条件および残渣量に応じた空間電荷分布を得ることができた。
2. 平均電界20 kV/mmでの定常状態および温度一定における空間電荷蓄積モデルの検討
導体温度60℃と90℃では,直流電圧の印加後23時間以内に電界分布は定常状態に至った。この電界分布に対して,界面分極現象注8 )に基づいた空間電荷蓄積を想定し,抵抗率の温度および電界依存性と残渣量分布を考慮した定常状態および温度一定における空間電荷蓄積モデルを構築した。同モデルを試料Aに適用し,測定で得た電界分布とモデルによる電界分布は良い一致を得た(図3)。
注1)絶縁体中に電荷(空間電荷)が蓄積したとき,絶縁体内の電界は空間電荷が形成する電界と外部電界が重畳した分布となり,絶縁体内の電界は変歪する。この電界変歪が絶縁体の絶縁性能へ影響を及ぼすと考えられている。
注2)絶縁体にパルス電圧を印加したときに絶縁体内部の電荷がクーロン力によって発する音波を圧電素子で測定することで,絶縁体内部の電荷分布を推定する手法。PEA (Pulsed electro-acoustic)法とも呼ばれる。得られた空間電荷分布を絶縁体の厚さ方向に積分することで,電界分布を得ることができる。
注3)例えば,[1]ではケーブルの温度分布が測定信号の補正処理に及ぼす影響を検討し,運転環境を想定した温度領域で高精度に空間電荷の測定が可能であることを示している。
注4)ジクミルパーオキサイド(DCP)を用いてポリエチレンを架橋処理するときに生じる微量の化学物質。
注5)例えば,Y. Li et al., “Influence of Crosslinking Agent Residues on Space Charge Distribution in XLPE,” IEEJ Trans. Fundam. Mater., vol. 112, no. 3, pp. 209–214, 1992.
注6)今回,導体断面積100 mm2,絶縁厚9 mmの66 kV交流CVケーブルを用いた。一般的に交流CVケーブル絶縁体の空間電荷蓄積は,直流CVケーブル絶縁体と比較して残渣の影響を受けやすいため,交流CVケーブルを用いた。
注7)直流CVケーブルの運転平均電界20 kV/mmと一致するように,直流電圧は180 kVとした。
注8)異種絶縁体の界面に電荷が蓄積することにより生じる分極現象。
関連報告書:
[1] GD21031「超高圧CVケーブルの空間電荷測定における過渡温度条件下での信号補正法の開発」(2022.06)
概要 (英文)
This report investigates the effect of crosslinking byproducts in XLPE cables on space charge behavior and electric field distribution under steady-state and transient temperature conditions. Two samples of 66kV class AC-XLPE cables having the same geometry were prepared with different amount of crosslinking byproducts. The applied voltage was plus and minus 180 kV which is corresponding to the average electric field of 20 kV/mm. For the steady-state temperature condition, ambient and conductor temperatures were set at 60 degree celsius and 90 degree celsius, respectively. For the transient condition, 24-hour load cycles were applied. As a result, a complex space charge behavior was obtained, which can be attributed to the amount and distribution of crosslinking byproducts. From the experimental results, the characteristic time at each temperature was calculated, and the effect of the temperature history of the cable insulation on the space charge phenomenon was discussed. Furthermore, an explanation of the steady-state electric field distribution was attempted based on interfacial polarization phenomena. Model calculation results, considering the temperature and electric field dependence of the resistivity and crosslinking byproduct distribution, show good agreement with the experimental results.
報告書年度
2022
発行年月
2023/08
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
森田 翔亮 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
布施 則一 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
高橋 俊裕 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
穂積 直裕 |
豊橋技術科学大学 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
CVケーブル | XLPE cables |
空間電荷挙動 | Space charge behavior |
パルス静電応力法 | Pulsed electro-acoustic method |
界面分極 | Interfacial polarization |