電力中央研究所

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電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)

報告書データベース 詳細情報


報告書番号

GD22007

タイトル(和文)

温度履歴解析に基づく電力用油入変圧器絶縁紙劣化評価手法の耐熱紙への拡張

タイトル(英文)

Extension of Evaluation Method of Thermal Deterioration for Insulating Papers in Oil Immersed Power Transformers Based on Temperature Calculation to Thermally Upgraded Papers

概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)

背  景
電力用油入変圧器(以下,変圧器)で使用される絶縁紙にはクラフト紙(普通紙)と耐熱紙 注1)がある。耐熱紙を採用することで変圧器の長寿命化 注2)が期待できるだけでなく,温度上昇限度を格上げして 注3)増容量が可能となる。耐熱紙を採用した変圧器の長寿命化や増容量化を定量的に評価する際は,耐熱紙の熱劣化を考慮する必要があるが,その評価手法は確立されていない。当所では,変圧器内部の温度履歴を計算して普通紙の熱劣化評価を行うソフトウェア(以下,絶縁紙劣化評価ソフト)を作成している[1]。耐熱紙の熱劣化特性を取得すれば,耐熱紙を採用した変圧器の劣化を同ソフトウェアにより評価でき,更には耐熱紙採用による変圧器の長寿命化や,劣化も考慮した増容量化の定量評価が可能となる。

目  的
耐熱紙の熱加速劣化試験を実施し,その熱劣化特性を取得する。また,その結果を絶縁紙劣化評価ソフトに実装して耐熱紙の熱劣化評価を可能とする。さらに,同ソフトを用いて耐熱紙採用による変圧器の長寿命化および増容量化の定量的評価例を示す。

主な成果
1. 耐熱紙の熱劣化特性
耐熱紙の熱加速劣化試験を実施し,平均重合度半減時間(図1)の温度特性を取得した。加熱温度によらず平均重合度半減時間は耐熱紙の方が普通紙より長く,耐熱紙の方が熱劣化しにくいことが確認された。また,熱劣化した耐熱紙の平均重合度と引張強度 注2)を測定した(図2)。その結果,平均重合度残率と引張強度残率には非線形の相関関係があることが確認できた。また平均重合度残率50%程度以下 注4)では,同じ平均重合度残率でも普通紙より耐熱紙の方が引張強度残率が高い結果であり 注5),耐熱紙の寿命レベルとなる平均重合度を普通紙よりも引き下げられる可能性が示唆された 注6)。

2. 絶縁紙劣化評価ソフトの耐熱紙への拡張
当所開発の絶縁紙劣化評価ソフトでは,平均重合度半減時間(図1)と加熱時間から算出した寿命消費率から平均重合度を計算しており(図3),導出した平均重合度半減時間の温度特性を同ソフトに実装して耐熱紙の劣化評価を可能とした。これにより,耐熱紙採用による変圧器長寿命化の定量評価や,温度上昇限度を格上げした場合の増容量の絶縁紙の劣化も考慮した定量評価が,同ソフトを用いて可能となった。

注1)変圧器では,普通紙にアミン化合物を添加して耐熱性を付与した耐熱紙が用いられることがある。
注2)変圧器の寿命は一般に絶縁紙の熱劣化による引張強度の低下で決まるとされており,熱劣化度を表す指標として平均重合度が用いられる。耐熱紙を採用することにより熱劣化に対する長寿命化が期待できる。
注3)変圧器に関する国内規格JEC-2200-2014 では,普通紙を採用した場合の巻線平均温度上昇限度は55K であるのに対し,耐熱紙を採用した場合は65Kとすることができる。温度上昇限度の格上げにより,冷却器の小型化によるコンパクト化や,定格負荷電流を大きくすることによる増容量が可能となる。
注4)日本電機工業会規格JEM 1463では,絶縁紙平均重合度450(初期値1000の時,残率45%)を寿命レベルとしている。
注5)普通紙と耐熱紙の平均重合度および引張強度の初期値は同等であり,残率の比較による評価が可能である。
注6)本報告で評価した絶縁紙引張強度は巻方向のみであり,耐熱紙の寿命基準引き下げには横方向の引張強度等も考慮する必要がある。

関連報告書:
[1]H11026「温度履歴解析に基づいた66~275kV油入変圧器の絶縁紙の劣化推定手法」(2012.06)

概要 (英文)

The thermally upgraded paper (TUP) shows higher heat resistance than normal kraft paper. When TUP is employed in oil-immersed power transformers, some benefits, such as long operation life and increase of load capacity by upgrading the temperature-rise limit, can be obtained. However, diagnostic methods for thermal deterioration of the TUP have not been established yet. In this paper, an accelerated thermal deterioration test of TUP is conducted, and the relation between tensile strength and the average degree of polymerization (DP), which is an indicator of thermal deterioration, is investigated. Furthermore, an empirical formula for temperature characteristics of half value-time of DP is obtained. This empirical formula is implemented in a software package developed by CRIEPI, which calculates DP from winding temperature and thermal deterioration characteristics of insulation paper. The winding temperature is calculated from load and ambient temperature history by the thermal circuit model of a power transformer. The upgraded software package can be employed for the thermal deterioration evaluation of TUP. Using the software package, an example of the extension of the life of insulation paper by employing TUP compared with normal kraft paper is demonstrated. Furthermore, possibility of increasing load capacity by upgrading the temperature-rise limit is demonstrated.

報告書年度

2022

発行年月

2023/06

報告者

担当氏名所属

宮嵜 悟

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

水谷 嘉伸

グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門

キーワード

和文英文
油入変圧器 Oil-immersed transformer
絶縁紙 Insulation paper
耐熱紙 Thermally upgraded paper
熱劣化特性 Thermal deterioration characteristics
劣化診断 Aging diagnosis
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