電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
GD21002
タイトル(和文)
電力流通設備のアセットマネジメントへの外部診断の適用事例-シャントリアクトル内の部分放電源の同定-
タイトル(英文)
Application of External Diagnosis for Managing Electric Power Equipment - Identification of Partial Discharge Source in Shunt Reactor -
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
電力流通設備の高経年化を背景に、設備の合理的な維持・更新計画策定手法へのニーズが国内外で高まっている。欧米を中心に先行している,設備のリスク・コスト評価に基づくいわゆる「アセットマネジメント技術」(注1)が注目されている。我が国の送配電事業でも実務への導入が志向されており,当所ではそれを支援するアセットマネジメント技術として,変圧器や遮断器等の設備群を対象に現場適用性の高い技術の開発を進めてきた[1]。アセットマネジメントをより実効的なものとするためには,設備個々に対する劣化状態や異常事象の外部診断結果に基づく評価が有効と考えられるが,その便益を定量的に示す報告例は少なく,評価事例を蓄積する必要がある。
目 的
油中ガス分析で部分放電発生が疑われたシャントリアクトル(ShR-A)(注2)の外部診断を行い部分放電発生箇所(注3)を同定する。更に,アセットマネジメント評価の例として,それに基づき事業者が策定した運用方針における外部診断の便益を定量的に示す。
主な成果
1. シャントリアクトルの外部診断
(1) 周波数応答解析(FRA)による診断
ShR-AにFRA(注4)を適用した結果,U-W相間伝達関数の12kHz付近の共振周波数の変化が確認された。この共振周波数の変化様相は,鉄心コアブロックの接地片が破断した同一設計器の事例[2]と同様であり,当該シャントリアクトルでも鉄心コアブロックの接地片が破断していると診断された。
(2) 部分放電測定による診断
現地でShR-Aの部分放電測定を行った結果,運転開始直後に特徴的な笠状の部分放電パターン(注5)が測定された。鉄心コアブロック接地片の破断を模擬した電極系でも同様の部分放電パターンが測定されたことから,ShR-Aでも鉄心コアブロックの接地片が破断し,そこで部分放電が発生していると診断された。
2. 外部診断に基づく運転方針の決定とその便益評価
ShR-Aを運用する事業者は,想定する今後の運用方針の中から,外部診断結果に基づきシナリオ2を選択した。すなわち,外部診断実施により,実施しなかった場合(シナリオ1)に比べ2年間更新時期を延伸できたこととなる。この更新時期延伸による便益を,先送りして支出する更新費用の現在価値から定量的に示した(注6)。
(注1)ISO55000シリーズでは,組織全体または部署横断で全体最適化を志向するAsset Managementと,対象設備ごとまたは細分化された部署ごとに最適化を志向するManaging Assetを区別しているが,通常日本語では両者ともアセットマネジメントと称される。本報告でいうアセットマネジメントは,後者を指す。
(注2)一般送配電事業者が運用中の定格容量20,000kVA,定格電圧66kV,経年44年のシャントリアクトル。鉄心脚は円柱状のコアブロックを絶縁物で挟んで積み重ねた構造であり,コアブロック間が接地片で接続されている。
(注3)部分放電発生箇所が巻線部の場合,部分放電により絶縁紙が炭化して絶縁耐力が低下し,短絡・地絡故障に移行する危険性が高く緊急の対応が必要だが,鉄心部であればその危険性は低いと考えられる。
(注4)FRAでは変圧器巻線のある端子に電圧源を接続し,他端子との電圧比を広い周波数帯で測定して伝達関数とする。変圧器が健全時に測定しておいた過去データと比較した変化の有無から巻線異常を診断する。
(注5)交流電圧下で発生する部分放電は,発生箇所に介在する絶縁物および導体の種類や形状によって特徴的な部分放電パターン(部分放電の発生数とその放電電荷量の位相特性)を示すことが知られている。
(注6)シャントリアクトルの更新費用を100(正規化値),期待寿命47年(劣化状況から経年47年での取替を計画していた)とし,年間利率をパラメータとして評価した。
概要 (英文)
In recent years, "asset management" or "managing assets" technique has been expected to support the rationalization of maintenance and operation of electric power equipment, especially as a countermeasure for aging equipment. For this purpose, the development of diagnostic methods of aging, remaining life, and faults is necessary. Furthermore, it is important to accumulate case studies applying such diagnostic methods to real equipment and the benefit of the applications of the diagnostic methods. In this report, frequency response analysis (FRA) and a partial discharge measurement are applied to a shunt reactor suspected of occurrence of partial discharge. Results of both the diagnostic method suggest that breakage of the earth bar connecting the iron-core brock and the partial discharge occurs at the iron core. Based on this diagnostic result, the shunt-reactor owner decided to postpone the replacement by two years compared with the case without applying any diagnostic methods. In this report, the benefit of the decided postponement is also evaluated.
報告書年度
2021
発行年月
2022/04
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
宮嵜 悟 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
倉石 隆志 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
共 |
高橋 紹大 |
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
アセットマネジメント | Asset management |
シャントリアクトル | Shunt reactor |
部分放電 | Partial discharge |
過渡接地電位センサ | Transient earth voltage sensor |
周波数応答解析 | Frequency response analysis |