電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)
報告書データベース 詳細情報
報告書番号
EX22010
タイトル(和文)
収差補正STEM-EDS法による中性子照射された圧力容器鋼の粒界偏析量の評価
タイトル(英文)
Evaluation of grain boundary segregation in neutron irradiated RPV steel by Cs-corrected STEM-EDS
概要 (図表や脚注は「報告書全文」に掲載しております)
背 景
原子炉圧力容器(RPV)では中性子照射や熱時効によってRPV鋼に含まれるリン等の不純物が粒界に偏析することが知られている注1)。これまではオージェ電子分光法(以下,AESとする)によるリンの粒界偏析量の評価が一般的であったが,AESでは破面を分析するため粒界破面を示さない材料では粒界偏析量を評価できなかった。このような材料に対する粒界偏析量の評価手法として走査透過電子顕微鏡法(以下,STEMとする)とエネルギー分散型X線分光法(以下,EDSとする)によるSTEM-EDS法やアトムプローブトモグラフィ(以下,APTとする)が挙げられ,これらの手法は集束イオンビーム(FIB)加工装置等と組み合わせることで様々な粒界に対する分析が可能となる。加えて,収差補正器を搭載したSTEM-EDS法では,従来のSTEM-EDS法およびAPTと比較してより広範な領域に対して粒界偏析量を評価できることから,実際の現象に近いスケールでの評価が期待される。
目 的
粒界偏析量の評価手法としてSTEM-EDS法に着目し,実機圧力容器鋼相当材であるJRQ材注2)(表1)の非照射材および試験炉照射材から採取した試料(図1)に対して粒界分析を行う。粒界過剰量注3)(図2)を粒界偏析量の指標とし,中性子照射による粒界過剰量の変化について検討すると共に,JRQ材について報告されているリンの粒界偏析量との比較を行う。
主な成果
1. JRQ材で認められた粒界偏析元素および中性子照射による粒界過剰量の変化
STEM-EDSにより粒界分析を行った結果,JRQ非照射材ではニッケル,マンガン,モリブデン,リンの粒界偏析が,照射材ではこれらの4つの元素に加え,銅,シリコンの粒界偏析が明瞭に認められた。中性子照射によりこれらの元素の粒界過剰量が増加することを確認した(図3)。
2. STEM-EDS法によるリンの粒界偏析量と既存知見の比較
AESにより得られたJRQ材に対するリンの粒界偏析量の報告値注5)と比較して,非照射材および照射材共に本研究の方が若干高い値を示したが,照射による変化量は同程度(図4)であった。以上の結果から,STEM-EDS法においてもAESと同等にリンの粒界偏析量を評価できると考えられる。
今後の展開
鋼材の偏析帯や粒界の種類を考慮してリンの粒界偏析量のデータ拡充を行い,材料の化学組成や照射量と粒界偏析量との相関を得る。
概要 (英文)
Grain boundary segregation of solute elements to prior austenite grain boundary (PAGB) in the neutron irradiated and unirradiated RPV steels (known as JRQ materials) were characterized by scanning transmission electron microscopy and energy dispersive X-ray spectroscopy (STEM-EDS). Segregation of Copper, Nickel, Manganese, Silicon, Molybdenum, Phosphorus was clearly observed on the PAGB in the irradiated JRQ. The grain boundary excess, which is defined as the number of excess atoms on the boundary plane is quantified from the concentration profile of the solute elements, to evaluate changes in the amount of the elemental segregation induced by neutron irradiation. It was found that neutron irradiation can cause increase in the grain boundary excess of Copper, Nickel, Manganese, Silicon, Molybdenum, Phosphorus, and Sulfur. The increase in the amount of grain boundary segregation of Phosphorus estimated by STEM-EDS was confirmed to be consistent with reported values of irradiated JRQ materials estimated by Auger electron spectroscopy.
報告書年度
2022
発行年月
2023/05
報告者
担当 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|
主 |
小林 知裕 |
エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門 |
共 |
小塚 雅也 |
エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門 |
共 |
宮原 勇一 |
エネルギートランスフォーメーション研究本部 材料科学研究部門 |
キーワード
和文 | 英文 |
---|---|
走査透過電子顕微鏡法 | Scanning transmission electron microscopy |
エネルギー分散型X線分光法 | Energy dispersive X-ray spectroscopy |
粒界偏析 | Grain boundary segregation |
原子炉圧力容器鋼 | Reactor pressure vessel steels |
粒界過剰量 | Grain boundary excess |